「股肱」の意味
「股肱」(ここう)とは、なくてはならないものという意味から転じて、主君にとって最も信頼できる家臣を表し、現在では、後者の意味で使われることが多いです。
「股」(また・もも)は、足の付け根、膝から上の太ももを指しています。一方「肱」(かいな)は、上腕部と前腕部をつなぐ関節、腱のことも表しますが、「ひじ」の部分と考えると分かりやすいでしょう。なお、古典文学では「肱」を腕全体の意味で使う用例も見られます。
「股肱」は、人間にとってなくてはならない体の部位であり、そこから転じて、主君の手足にたとえ、「主君の代わりに手足となって働く大切な家臣」を表しています。主君の体の一部にたとえるくらい「自分に欠かせない必要な家臣」として強い信頼を置いていることになります。
一見「股肱」に見えても
主君から見ると、自分の身になって働いてくれる「股肱」の家臣であっても、実は「佞臣」(ねいしん:表向きは口先が上手く媚びへつらっているが、裏では悪い心を持っている部下)だったり、「逆臣」(ぎゃくしん:謀反や失脚を企んでいる家臣)だったりすることもあります。
厳しいことを言っても、主君の身を考えてくれる家臣や部下こそが「股肱」にふわさしいでしょう。上に立つ側でもしっかりと見極める必要がありますね。
「股肱」の使い方
現代では封建時代のように、主君と家臣という関係はなくなりました。上司などの上役や、組織のトップの下で働く信頼できる部下について「股肱」と表します。使う場合は、「股肱の臣」「股肱之臣」(ここうのしん)といった形が多いです。
「股肱之臣」は、『史記』の「太史公自序」からの出典で、最も頼りになる家臣という使われ方をしています。もちろん、昔の主従関係の制度はなくなっているので、現代に当てはめる時には「股肱の臣のような」と比喩的に使います。
「股肱」の例文
- 秘書のAさんは、社長にとって股肱の臣のような存在だ。
- 股肱の家来といっても、日常的に人前で怒鳴りつけられれば仕えるのが嫌になっちゃうんじゃないかな。
「股肱」の類語
腹心
「腹心」(ふくしん)は、おなかと胸の内を表します。転じて、心の奥底にとどめている本音という意味も派生しています。さらに派生して、自分の本音をわだかまりなく話せる信頼のおける人を指しています。
「股肱」の類語として使う場合、「腹心の部下」「腹心の家臣」のように仕事などで従う立場が分かる語句を付けます。
【例文】
- 腹心の部下に今後の計画を打ち明けた。
- あんなに信頼していたのに、腹心の家臣に裏切られ失脚の憂き目にあった。
忠臣
「忠臣」(ちゅうしん)は、准大臣(じゅんだいじん:内大臣に次ぐ対応を受ける人)という意味もありますが、忠実で主家に義理を尽くす家臣を表すことが多いです。家臣のことであれば「股肱」と同じように表現できます。
江戸時代の儒学者「安東省菴」(あんどうせいあん)の著書『三忠伝』に日本三忠臣(天皇に忠実に仕えた家臣)として、「楠木正成(くすのきまさしげ)」「平重盛(たいらのしげもり)」「万里小路藤房(までのこうじふじふさ)」が挙げられています。
【例文】
- 『忠臣蔵』では、忠臣の赤穂浪士たちが主君の仇討ちをする様子を描いている。
- 平重盛は、父の清盛の専横に意見をした忠臣だと伝えられている。
股肱羽翼
「股肱羽翼」(ここううよく)とは、主君を補佐する重要な役目を担う人を言います。「羽翼」は、左右に広がって鳥の体を支えて飛ぶのを助けることから、補佐する、助けとなるという意味も表せます。「股肱」と似ている表現ですが、補佐するという意味合いが強いでしょう。
【例文】
- 股肱羽翼というと、現在の副社長のような感じかな。
- 彼はまだ若いけれども、切れ者で人当たりも良いので股肱羽翼の存在と一目置かれている。