「言わしめた」とは?
「言わしめた」は「言う」の使役形
「言わしめた」とは、「言う」に使役の助動詞「-しめる」がついた使役形です。「た」で終わっているので過去形となり、「言わせた」という意味を表します。
語の要素を詳しく分解すると、以下の通りです。
- 言わしめた:「言う」未然形+「-しめる(使役)」+「-た(過去)」
「言う」の使役形ですから、「言わしめた」は「~が~に~と言わしめた」と目的語を二つ取り、「誰か/何か」が「誰か」に「何か」を言わせたことを表します。
「言わしめた」の使い方について
「言う」の使役形ならば「言わせた」という分かりやすい言い方がある中で、「言わしめた」と言うのはどういう場合なのでしょうか。
実は「言わしめた」と「言わせた」にははっきりとした意味の違いはありません。「言う」の使役形から発生する意味・特徴を両者とも持っています。
しかし「言わしめた」には、文体や、組み合わさる助詞に特徴がありますので、これより下に詳しく解説します。
「言わしめた」は文語的表現
「言わしめた」の「-しめる」は古語の使役の助動詞「-しむ」の現代語形で、文語的な響きがあります。日常会話では「言わせた」が普通の言い方です。
- 大事なことなので、本人から言わせた。
- 大事なことなので、本人から言わしめた。
(2)の例は、文法的には間違ってはいませんが、文語調であるため時代がかって大げさな印象を与えます。以下のように口語調にすると奇妙さが際立ち、正しい文章とは言えなくなります。
- そんなこと、私の口から言わせないでよ。
- そんなこと、私の口から言わしめないでよ。【不自然な文章】
「~をして言わしめた」
さらに、「言わしめた」は文語的表現であるため、「~に(言わしめた)」の部分も、呼応して文語調の「~をして(言わしめた)」の形を取ることも多くあります。
- 彼女の不躾な質問は、温厚な紳士で知られるその人をして「怖いもの知らずで頼もしい」と言わしめた。
「言わしめた」の意味的特徴
「言わしめた」は成果・状況を認めざるを得ない時に使う
「言わしめた」が、文語調の文体の中になくても、現代語として不自然でなく使われる例は、以下のようなものです。
- 見習いシェフの料理だが、素材選びも調理も完璧で、高名な料理評論家にうまいと言わしめた。
- 彼の業績は、彼を嫌う人々にも尊敬すると言わしめた。
- 中学で全テスト0点で卒業したN君は、D君をして「ある意味天才」と言わしめた。
これらの用例に共通する特徴は、その成果や程度が明らかであるため、それを認めるコメントを発する他ないという状況でです。
特に、「高い評価を否応なく付けざるを得ない」という意味合いから、高評価をもらうのが難しい相手(1)や反目しあってた相手(2)が主語にくることが多くあります。
「使役」によって生まれる意味
「言わしめた」という言葉には、当人の意思に関わらず、そのように言わざるを得ないという点で、他者が強(し)いて何かを行うように仕向けるという意味の使役が使われていると解釈できます。
使役の機能が共通している現代語の「言わせる」にも、同じ用法があります。
- 見習いシェフの料理だが、素材選びも調理も完璧で、高名な料理評論家にうまいと言わせた。
- 彼の業績は、彼を嫌う人々にも尊敬すると言わせた。
「言わしめた」と「言わしめる」
「言う」の活用形の中から、「言わしめた」だけが現代に生き残ったわけではありません。「言わしめる」も十分に現代語として通用します。両者の意味には、どのような違いがあるのでしょうか。
述語の「言わしめる」
- 彼女の練習ぶりは、コーチに「練習の鬼」と言わしめた。
- 彼女の練習ぶりは、コーチに「練習の鬼」と言わしめる。
「言わしめた」「言わしめる」を述語として使った場合、基本的には、過去時制と現在時制の違い通りに理解すれば問題ありません。
上の例では、既に練習の鬼と「言わせた」のが「言わしめた」であるのに対し、「言わしめる」では練習好きと認めざるを得ないという意味での一般的な事実の記述となります。
形容詞節の「言わしめる」
- ハイ・ソサエティの顧客たちに「最高」と言わしめたデザイナー
- ハイ・ソサエティの顧客たちに「最高」と言わしめるデザイナー
「言わしめた」「言わしめる」を形容詞節で使った場合も同様です。過去形である「言わしめた」は過去のある時点で高い評価を得たということに触れるのみであり、現在の評価については明言されていません。
(2)の現在形の「言わしめる」は、現在形の一般的事実を表す用法で、恒常的に「最高」と評価されるデザイナーであるという意味があります。