「興じる」とは
「興じる(きょうじる)」は「興ずる」を上一段化した形です。「興ずる」とは、「楽しんで熱中する・愉快に楽しい時を過ごす」「興味を持つ」といった意味を持つ言葉です。現代においては、おもに前者の意味で用いられますので、本記事でもその意味に絞って解説します。
「興」の字義
「興」の音読みは<キョウ・コウ>、訓読みは<おこ-す・おこ-る>です。「興」は多くの字義を持ちますが、おもに、「新たに始める・盛んにする」「盛んになる・立ち上がる」「楽しみ・趣」「楽しむ・喜ぶ」といった意味があります。
「興じる」の使い方
「興じる」は「楽しんで熱中する」という意味ですが、「仕事が楽しくて熱中する」というシチュエーションではあまり用いられません。たいていの場合、遊戯、お喋りなど、エンターテインメント性があるものに対して使います。
これは、「興じる」には、愉快だと思える物事を得ることによって気分が盛り上がるというニュアンスがあるためだと考えられます。そのため、仕事、青春など長い時間を要する事柄に対しては用いられないのでしょう。
ギャンブルをしている人を、「ギャンブルに興じている」と表現することがあります。これは、上記を踏まえれば、「ギャンブル三昧の人生を送っている」というよりは、「ひと勝負ひと勝負に熱中している」様子を表していると言えます。
【例文】
- ドッヂボールに興じていた子供達はチャイムとともに教室に駆け込んできた。
- 久しぶりに実家に戻ると祖父たちが麻雀に興じているところだった。
- 宴に興じている面々を尻目に、私はそっと席を立った。
- 満開の桜を前に、たくさんの人がカメラやスマホで撮影に興じていた。
- 会場に入るとご婦人方がグラスを片手に噂話に興じていた。
「興じる」を含む複合語
「打ち興じる」
「打ち興じる」は、「打ち」+「興じる」で構成されています。ここでの「打ち」は接頭辞で、続く動詞を強調する副詞的な働きがあります。「旗を打ち振る」「不幸が打ち重なる」と同じような使い方ですね。
そのため、「打ち興じる」=「非常に面白がる・心から面白がる」という意味になるのです。程度が強調されているだけですから、「興じる」と同じように用いられます。
【例文】
- 近所の子供達はカードゲームに打ち興じている。
- 彼女は久しぶりに触るピアノに打ち興じていた。
- ゲストたちは素晴らしいテラスからの眺望に打ち興じている。
- 待合室では老人たちが世間話に打ち興じていた。
「笑い興じる」
「笑い興じる」とは、「笑い」+「興じる」で成り立っています。「楽しくて熱中する」という意味の「興じる」に、わざわざ「笑っている」という説明を加えているので、キャッキャと、あるいは、ゲラゲラと、笑い声をあげて熱中している様子が窺える言葉です。
【例文】
- 教室では女生徒たちが他愛もないことで笑い興じていた。
- 兄たちはひとしきり昔話に笑い興じると、それぞれの部屋へ引き上げて行った。
「興じる」の類語
「夢中になる」
「夢中」には、「夢を見ている間・夢の中にいる状態」と「あるひとつの物事に心を奪われて我を忘れていること」という二つの意味があります。「夢中になる」というときの「夢中」は後者の意味です。
「興じる」に近い言葉ですが、「興じる」には「我を忘れる」というニュアンスがないという点においては異なります。また、「興じる」は時間を要する事柄には用いられませんが、「夢中になる」は仕事や作業といった事柄についても使うことができます。
【使用例】
- OK:「噂話に興じる」/OK:「噂話に夢中になる」
- NG:「事業に興じる」/OK:「事業に夢中になる」
「耽る」
「耽る<ふける>」とは、「あるひとつの物事に熱中する・夢中になる」という意味です。熱中するという点は「興じる」と共通していますが、使い方は少し異なります。
「興じる」のような瞬間的な気分の盛り上がりによる熱中を表しますが、「耽る」は没頭するというニュアンスです。そのため、雑談、思索、瞑想などには用いることができますが、ゲームなどには使わないのです。
また、「ギャンブルに興じる」「ギャンブルに耽る」はどちらも使用可能ですが、前者は「ひと勝負ひと勝負に熱中している」、「ギャンブル三昧の人生を送っている」というニュアンスになるでしょう。
【使用例】
- OK:「噂話に興じる」/OK:「噂話に耽る」
- NG:「物思いに興じる」/OK:「物思いに耽る」
- OK:「ドッヂボールに興じる」/NG:「ドッヂボールに耽る」
- OK:「ギャンブルに興じる」/OK:「ギャンブルに耽る」