「悖る」とは?
「悖る」(読み:もと-る)は五段活用の動詞(古語では四段活用の動詞)です。「悖」には、背く、あるべき姿に反する、食い違っている、でたらめという意味があります。
意味①
「悖る」の1つ目の意味は、「悖」とほぼ同じです。原則や道理などの人が守らなくてはいけない決まりに背いている・筋道に合わないことを指し、やや古めかしい表現です。普段の話し言葉よりも、規範などを表す言葉の後に付いて使われることが多いでしょう。
「戻る」と同語源であり、「戻る」を「もと-る」と読む場合も、「悖る」と同じように物事の道理に外れていてひねくれている、逆らって背くということを意味します。
意味②
「悖る」は、背くや反するという意味から派生して、本来の姿とは程遠いこと、正常な状態とはかけ離れていることから、ゆがむ・ゆがめる・ねじ曲がるという意味でも用いられます。あまり良くない人の様子や性格などを表す時にも使います。
現在ではあまり見られない用法ですが、古文では上記の意味で使われている例がありますので、後ほど紹介します。
「悖る」の使用例と例文
使用例
「悖る」には、規範に背いていても平気で守ろうとしない、悪い性質を持っていることを非難するニュアンスで用いられることが多いでしょう。明文化されている法律やルール、生活の中で共有されている常識や道徳に反する行動に対して「悖る」を使います。
【使用例】
- 「人道に悖る」人として守るべき常識や規範を平気で外れている
- 「倫理に悖る」善悪、正しいかよこしまか判断する際の基準から大きく逸れている
- 「道義に悖る」人が行うべき正しい行動に反している
- 「信義に悖る」約束を守り誠実に相手に対して役目を果たさずに信頼を損なうことをする
例文
- 詐欺行為を働くなんて、人道に悖る行動だよ。
- 泥棒はいけないことだ。倫理に悖る行為で最低だ。
- あんなに世話になったのに恩人の顔に泥を塗るようなことをして、道義に悖る。
- 期日までに納品するという約束なのに、ドタキャンなんて信義に悖ることをする奴だ。
古文における使用例
平安前期の日本最古の仏教説話集『日本霊異記』(正式名称は『日本国現報善悪霊異記』作者は薬師寺の僧侶・景戒)の中巻に、「悖る」を使った文脈があります。
奈良時代に編集された歴史書『日本書紀』(撰・舎人親王ほか)にも「悖る」という語句が使われています。意味合いに違いはあっても、はるか昔から使われていた言葉ということがうかがえます。
…訳・豪族の毛野臣の人柄はねじ曲がってひねくれていて、地域を統治するために他国を手本にするようなこともなかった。
「悖る」の類語と反対表現
「道理に背く」意の類語
【反する】(読み:はんする)
規則や決まりなどに違反する・上からの命令や目上の人の教えに背くなどの意味で使われます。
例:いじめを行うことは、人の道に反している。
【叛く】(読み:そむく)
目上の人の命令や意向に従わない、裏切るなどの意味もありますが、決め事や約束を守らずに違反するという意味もあります。
例:道義に叛いてばかりで、近所づきあいを敬遠されている。
【悖徳・背徳】(読み:はいとく)
人として守るべき道徳やモラルに欠けて、常識に適った行動をしないことを指します。
例:悖徳的な生き方をしていると罰が当たるぞ。
「道理に背く」意の反対表現
【常識がある】
社会で当たり前とされている知識があり的確が判断ができること、つまり、社会の中で生きていく上で守るべきルールを分かっていて、人に不快感を与えない行動ができることを言います。
例:Aさんは常識があるので、仕事上で気持ち良くお付き合いができる。
【規律を守る】
決められたルールや、守るべき共通認識をしっかりと把握して、決まりに従って行動できることです。
例:厳しく規律を守る方なので、安心して任せられます。