「ネガキャン」の誕生
「ネガキャン」は略語です。正式には「ネガティブ・キャンペーン」、直訳すると「否定的な宣伝活動」とでもいえるでしょうか。一見、和製英語のようにも見えますが、「negative campaign(campaigning)」はアメリカで生まれ、今も昔も広く使われている言葉です。
英語の「campaign」には、「ある目的を達成するために組織立って行われる活動」という意味があります。日本では「ポイント〇倍キャンペーン」「新規入会キャンペーン」といった手軽な使われ方が目につきますが、アメリカでは「選挙運動」の意も大きな位置を占めており、そこから「ネガティブ・キャンペーン」という表現も生じました。
選挙戦略「ネガティブ・キャンペーン」
大統領選がわかりやすい例ですが、対立候補や政党の評価を落とすため、相手側の欠点や、投票結果に不利に働きそうな要素をことさらに取り上げ、広く大衆に知らしめる。真っ当な政策批判だけでなく、時には過去のスキャンダルを暴きたてたり、人格批判まで繰り広げて。こうした行為が「ネガキャン」です。
社会生活において、印象や世間の評判が多大な影響力を持っているのは誰もが実感するところでしょう。よって「ネガキャン」は明確にイメージ戦略と呼べるものであり、さまざまな分野で用いられる手法となりました。
広告手法「ネガティブ・アド」
「ネガキャン」戦略の代表的な例はやはり商品広告です。前述の選挙戦術と同様、他社製品の短所を強くアピールすることでマイナスイメージを与える広告。これを「ネガティブ・アド(negative ad.)」といいます。
とかく悪い噂ほど広まりやすいのが世の中。一定の効果が見込まれるからこそ、「ネガキャン」の手法が採られるといってよいでしょう。
逆説的な「ネガティブ・アプローチ」
ところで、「ネガティブ・アド」をひと捻りしたような、逆説的な広告戦略があるのをご存じでしょうか? 自社や自社製品の弱点をあえて表明してみせることで、消費者の信頼を得る手法。これを「ネガティブ・アプローチ(negative approach)」といいます。
通常、広告には「いい面しか言わない」という特徴があります。消費者側からすれば、そこには常に潜在的な「疑いのまなざし」があるのです。これを逆手にとって、ネガティブ面を公にすることで、誠実さをアピールしたり、「こういう短所がありますが、それを上回るこんな美点もありますよ」という具合にイメージを上げるわけです。
拡大する「ネガキャン」
インターネットが普及した現代においては、「口コミ」の持つ力はいっそう絶大なものとなりました。と同時にインターネットは、個人による発信、特に匿名による発信を容易にしました。これによって、企業や政党などが大っぴらに行うものとは別の「ネガキャン」も散見されるようになってきました。
例えば、単に嫌いな芸能人を貶めたいがために悪意ある書き込みをする。それを重ねることで世間の印象を操作する。いまではそうした個人レベルの行為も「ネガキャン」と称されるようになってきました。
「ネガキャン」の問題点
「ネガキャン」のあれこれについてザッと見渡してきましたが、なにしろ自身の(あるいは自身が支持する対象の)長所を訴えるのではなく、相手を貶めることで相対的に優位に立とうというのですから、この「ネガキャン」という行為自体がネガティブな、場合によっては意地悪な印象をまとうのは避けられないところでしょう。
批判の理由が事実であるならまだしも、実際以上に誇張したり、あるいはまったくの事実無根であるケースもけっして例のないことではないのです。「ネガキャン」という言葉が「誹謗中傷」というニュアンスで語られることが多いのはそのためです。
誰でも簡単に「ネガキャン」できる時代。その効果は認めつつ、何が本当で何が嘘か、冷静に判断をくだす目を養うことがいっそう重要な社会になったといえるのではないでしょうか。