「慄く」とは
「慄く」は「おののく」と読みます。あまりの恐ろしさのために手足が震えること、震えだすくらいに怖がっているという意味です。
人が震える理由は多々あります。寒さや緊張によるもの、気分が高揚している時、嫌われたくないと守りに入っている時もそうです。もちろん、薬の副作用や筋肉の疲労ということもあります。
「慄く」は不安や恐怖が原因である場合にのみ使われる言葉です。怖いという感情の有無がポイントです。「慄く」は「戦く」とも書きます。戦いや争いを前にした恐怖を表すのにぴったりですね。
「慄く」と間違えやすい漢字
「慄く」は日常ではあまり目にしない言葉でしょう。間違えて読みそうな言葉をいくつか挙げておきます。
- いななく(嘶く)
- うそぶく(嘯く)
- ようやく(漸く)
「慄く」の使い方
怖がる
「慄く」は怖がっている、恐れているという意味で使われる言葉です。「恐れ慄く」や「不安に慄く」のように使います。例文で確認してみましょう。
【例文】
- 朝起きた時、枕元に蛇がいたらさすがに怖い。親父ですら恐れ慄くよ。
- これが、社長が声もあげられないくらい慄いたという例の写真ですか。
- 彼の一挙手一投足に慄いてるのは、やましいところがある連中だけだよ。
震える
「慄く」だけでも震えるという意味はあるのですが、「震え慄く」や「慄き震える」のように前後に震えるを伴う形でも使われます。ただ震えているというよりもより怯えている様子が伝わりますね。
【例文】
- 猛獣たちが諦めて去ってくれることだけを願い、家の中で震え慄いていた。
- 君が母親の名前を出しただけで慄き震える役人どもの顔、最高だったよ。
- 奥歯がかたかた鳴るほど慄きあがっている。
NG例
「慄く」は恐怖によるからだの震えを指す言葉です。恐怖以外の原因による震えには使うことができません。例として「武者震い」と比べてみましょう。
「武者震い」とは重大なことを前にして心が勇み立ち、全身が震えることを指します。「慄く」も「武者震い」も感情が原因であるところは同じです。
しかし、それに対する心持ちが違います。「慄く」は逃げたい、やめたい、したくないという臆病な気持ちです。対して、「武者震い」はやってやるぞと意気込んで立ち向かう勇敢な気持ちがあります。「fight or flight」という違いですね。
「慄く」の類語
怯む
「怯む」は「ひるむ」と読みます。気おくれしてしまい、体が動かない様子です。手足がすっかり萎えて動くに動けないような状態です。
「慄く」と同じく恐怖を原因とする体の反応ですが、体が震えているわけではなく、むしろ金縛りにあったかのように凍り付いている様子を表します。
戦慄く
「戦慄く」は「わななく」と読みます。送り仮名がない場合には「せんりつ」です。「慄く」同様に体が小刻みに震えることを表す言葉です。
よく似た二つの言葉ですが、一つだけ大きな違いがあります。それは、怒りや興奮、動揺といった感情が原因であっても使えるかどうか、です。
不安や恐怖にしか使えない「慄く」に対し、「戦慄く」は大抵の感情に適用可能です。「怒りに戦慄く」とも言えます。ただし、感情ではない寒さに震えるというケースでは使えません。
怖気づく
「怖気づく」は「おじけづく」と読みます。恐怖心が芽生えること、恐ろしい、かなわないという気持ちになるという意味です。
「慄く」よりも「怯む」や「びびる」に近く、何かに挑戦する前から逃げようとする、ためらうことです。英語のスラング、「チキン」が近いかもしれませんね。