「悉く」とは?
「悉く」は、「ことごとく」と読みます。多くの場合、ひらがなで表記されます。「悉く」は、「問題にしているもの全部」「残らず・すべて・みな」を表す言葉です。
問題にしているもの全部とは?
「問題にしているもの全部」とはどういうことか?上の写真を見ながら「テントウムシたちが悉く羽を休めている」と言われた場合を例に挙げましょう。
発言者は「地上に存在するすべてのテントウムシ」に対してコメントしているのではありません。「写真に写っているすべてのテントウムシ」に限定しているのです。
つまり、この場合、問題にしているのは、「写真に写っているもの」。このように、「悉く」には「ある条件下においてのすべて」という含みがあります。
「悉く」の語源
「悉く」の語源は「事事(ことごと)」です。「事」を重ねることで、「物事のすべて・物事の一切」が表されています。「悉く」は、この「ことごと」を副詞のかたちにした言葉です。
「悉」の漢字の成り立ち
興味深いことに、「悉」は、上部が獣の爪、下部が心臓の象形。全体では、獣が獲物にのしかかり、その爪で心臓をえぐりとる様子を表しています。
獲物のすべてを残さずにとるというところから、「悉」という漢字の持つ「つくす」「すべて」「つぶさに」などの意味につながっていくのです。
「悉く」の使い方
- 田中氏は、おととし起業したばかりだが、やることなすこと悉く成功して波に乗っている。
- 初めて家庭菜園に挑戦したところ、どの苗も悉く実をむすび、この夏は新鮮なトマトやきゅうりを楽しんでいる。
- 自分が出張している間、入院中の母の様子を悉く知らせるようにと妻に頼んだ。
「悉く」の類語と使い方
「逐一」
「逐一(ちくいち)」とは、「何から何まですべて・一つ一つ全部」という意味です。また、転じて、「詳しく・詳細に」といった意味もあります。
「逐一」は、順を追ってひとつひとつ取り上げるということですから、細部をひとつひとつ丹念にという意味合いが強調されていることがわかるでしょう。
下の例で、「逐一」を「悉く」に置き換えても意味はほぼ同じです。しかし「逐一」は、分刻みに順を追った細かい報告が必要な印象を受けます。一方、「悉く」の場合は、外回りという条件が強調されたイメージです。
【文例】山田部長は、部下が営業で外回りをした際には、逐一報告書を書かせる。
「具に・備に・悉に」
読み方が難しいですが、「具に・備に・悉に」はどれも「つぶさに」と読みます。「つぶさに」は「詳細に」、あるいは「すべてもれなく」という意味です。後者の意味は「悉く」と同じですが、前者の意味では「細かく」というニュアンスが強く現れています。
下の文例で、「つぶさに検証する」というと、一時停止したりズームしたりしながら「事細かく」見ているイメージ。これを「悉く」に変えると、録画した動画ファイルを一つ残らずチェックしているイメージですね。
【文例】オリンピックの体操競技で金メダルを狙う山本選手は、ビデオ録画した自分の演技をつぶさに検証している。
「隈無く」
「隈無く(くまなく)」には、「隅(すみ)から隅まで」と「影や曇りがない様子」という二つの意味があります。「悉く」の類語になり得るのは、前者の意味で使う場合です。「隈無く」には、「物理的な空間において隅々まで」という含みがあります。
下の例では、カーペットの裏から排水溝まで探しているイメージです。ニュアンスが異なるので、単純に「悉く」に置き換えることはできませんが、「家の中のものを悉く押収した」のように使うことはできるでしょう。
【文例】テロリストの隠れ家を見つけた刑事たちは、家のなかを隈無く捜索し、指紋なども採集した。
「ことごとく」の漢字表記
下に挙げたように「ことごとく」と訓読みする漢字はいくつもありますが、漢字による使い分けはありません。表記は違っても、意味は「悉く」と同じです。一般的な辞書には、「ことごとく」の表記に「悉く」「尽く」の二種類が掲載されています。
- 尽く(異体字:盡く)
- 侭く(異体字:儘く)
- 竭く
- 咸く
- 殄く
- 畢く
- 殫く