「いわれはない」とは
「いわれはない」の意味
「いわれはない」は、「正当な理由が存在しない」「納得のいく根拠が無い」「筋合いは無い」という意味の慣用句です。
「いわれはない」の成り立ち
「いわれはない」を漢字で表記すると「謂れは無い」。名詞「謂れ」+副助詞「は」+補助形容詞「無い」で「いわれはない」です。ここでの副助詞「は」は、主題を表す役割があります。
「いわれ」とは
「いわれ(謂れ)」は、動詞「言う」の未然形+受身の助動詞「る」から成る「言わる」の連用形。つまり、「言わる」が名詞化した言葉です。
「いわれ」を直訳すると「言われる事」。派生して、「物事が起こったわけ・理由」「由緒・来歴」を表します。「いわれはない」というときの「いわれ」は、前者の「物事が起こったわけ・理由」という意味です。
「いわれはない」の使い方
「いわれはない」は、多く、「〜するいわれはない」というかたちで用いられます。
【使用例】
- 私が彼に頭を下げるいわれはない。
- あなたに呼び捨てにされるいわれはない。
- 彼ほどの達人ならば、この剣を扱えぬいわれはない。
- 彼らに責められるべきいわれはないはずだ。
- 死ぬいわれはない人々が大勢亡くなった。
「いわれはない」の例文
『あるニュウ・フェイスへの手紙』
ー岸田國士『あるニュウ・フェイスへの手紙』ー
『あるニュウ・フェイスへの手紙』には、若い俳優が直面する問題にアドバイスを送るというかたちで書かれた文章が収められています。
上の引用は、映画撮影所に入ることが決まった女優に対して、俳優の心構えについて話しているもの。「俳優に対しては世の中の偏見がつきまとうが、俳優が軽んぜられる理由はないのだから、惑わされないように」と言っている部分です。
『赤ひげ診療譚 むじな長屋』
ー山本周五郎『赤ひげ診療譚 むじな長屋』ー
『赤ひげ診療譚』は、山本周五郎による連作短編時代小説集。そのなかの『むじな長屋』は、往診に行った先の長屋の住人・佐八の話です。
佐八は、自分の生活に最低限必要な金品以外はすべて長屋の住人に分け与えています。それには、生き別れた妻にまつわる理由がありました。引用した場面では、佐八が、「金品を分けるのは、妻のためにしていることだから、感謝されるようなことじゃない」と言っています。
『レ・ミゼラブル』
ービクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌』豊島与志雄・訳ー
お互いに一目惚れしたコゼットとマリウス。修道院育ちのコゼットは恋という感情を知りません。自分の中に湧き出でる気持ちがなんなのか分からず困惑します。
ここでいう病気とは「恋」を指しています。引用したのは、「それが恋だと知らなければ、恋の病が軽くて済むという筋合いのものではない」と描写している場面です。
「いわれはない」と「いわれのない」・「いわれない」
「いわれはない」と似た表現に、「いわれのない(謂れの無い)」と「いわれない(謂われ無い)」があります。どれも意味は同じですが、そのほかの点に違いがあるのか見ていきましょう。
「いわれのない」・「いわれない」
「いわれのない」は、「いわれ」+助詞「の」+「ない」で構成されています。この場合の「の」の役割は部分的な主語を表すことです。「の」は省略されることがありますが、「の」の有無で意味は変わりません。
<例>
- いわれのない差別→いわれない差別
- 穢れの無い瞳→穢れ無い瞳
- 桜の咲く季節→桜咲く季節
「いわれはない」と「いわれのない」・「いわれない」の違い
「いわれはない」と「いわれのない」・「いわれない」は、使い方に違いがあります。
【「いわれはない」は名詞を修飾しない】
× | いわれはない差別 |
○ | いわれのない差別 |
いわれない差別 |
【「いわれはない」は述語となる】
○ | 彼らが差別されるいわれはない。 |
× | 彼らが差別されるいわれのない。 |
彼らが差別されるいわれない。 |
【「いわれはない」の複合語は名詞を修飾する】
○ | 彼らは差別されるいわれはない人々だ。 |
彼らは差別されるいわれのない人々だ。 | |
△ | 彼らは差別されるいわれない人々だ。 |