「やんごとなき」とは?意味や使い方をご紹介

作品タイトルや台詞で登場する「やんごとなき」という言葉。最近では、日常会話でも耳にすることが増えました。しかし、この「やんごとなき」は、時代とともに使われ方が変化している言葉でもあります。今回は「やんごとなき」の、本来の意味と使い方について詳しく解説します。

目次

  1. 「やんごとなき」とは
  2. 現代語「やんごとなき」の使用例
  3. 「やむごとなし」の原義
  4. 「やんごとなき」のまとめ

「やんごとなき」とは

「やんごとなき」は形容詞「やんごとない」の活用形で、身分などがきわめて高いさま、高貴であることを表現する際に用いられる言葉です。「やんごとなき」は連体形であるため「やんごとなき○○」と後ろに必ず名詞が続きます。

原語は古文の形容詞「やむごとなし」ですが、いくつもの意味を持つ「やむごとなし」に対し、現代語「やんごとない」は意味が限定的です。身分に関することのみで「やんごとない」を説明している辞書もあります。

現代語「やんごとなき」の使用例

  • 来週のパーティにはやんごとなき方々が出席されるので、ぬかりなく準備を進めなければならない。
  • 長く付き合ってきた友人が、実はやんごとなき一族の令嬢だったと知り驚いている。
  • 「実家には代々受け継がれた家宝がある」と聞いて、彼がやんごとなき人物だと再認識した。

「やむごとなし」の原義

先述の通り、身分の高さを表す意味で「やんごとなし」という言葉を用いるのは現代の用法で、古語の「やむごとなし」は以下のとおりいくつもの意味を持っています。

  1. 捨てておけない、よんどころない、やむをえない、のっぴきならない
  2. ひととおりではない、特別だ
  3. 尊重しなければならない、気がおける
  4. きわめて尊い、高貴だ
  5. おそれおおい、失礼だ

「やむごとなし」は「止む事なし」と書き、その文字の表す通り「やめられない」や「ほうっておけない」というのがもともとの意味です。

そして、ほうっておけないような大切なもの、尊重すべきもののさまであることから「別格だ」「貴重だ」「尊い」「おそれ多い」などの意味が生まれたと言われています。以下に意味ごとの使用例の紹介として、平安時代の文学作品の一節を引用します。

意味1:捨てておけない・のっぴきならない

「うちにしもやむごとなきことあり」とて出でむとするに

訳:「宮中にちょうどのっぴきならない用事がある」と言って、(夫の兼家が)出ようとするときに

〈蜻蛉日記・天徳元年〉

意味2:ひととおりではない・特別だ

その日になりて、上達部あまた、今年やむごとなかりけり

訳:(院の「のり弓」が行われる)その日になって、公卿がたくさん(参加して)、今年は特に盛大だった

〈蜻蛉日記・天延元年〉

意味3:尊重しなければならない・気がおける

人よりさきに見たてまつりそめてしかば、あはれにやむごとなく思ひきこゆる心をも

訳:誰よりも先に結婚した方なので、愛しく大切に思い申しあげる気持ちを

〈源氏物語:紅葉賀〉

意味4:きわめて尊い・高貴だ

やむごとなき御方々、物見給ふとて

訳:高貴な方々が見物なさるということで

〈源氏物語:花宴〉

意味5:おそれおおい・失礼だ

「なほこたみだに御かへり、やむごとなきにも」とさわげば

訳:せめて今回だけでもご返事を。ほおっておくことはできないこと(それは失礼なこと)ですから」と騒ぐので

〈蜻蛉日記:天禄二年〉

「やんごとなき」のまとめ

日常会話で「やんごとなき事情」「やんごとなき状況」のような使い方をするケースがあります。

その場合は「よんどころない事情」「のっぴきならない状況」という意味で使っているので、これまで解説してきた‘現代の用法‘には当てはまりませんが、「やむごとなし」の本来の意味に照らし合わせれば決して間違いではないということになります。

ただし、それは周知されているものではないと認識しておく必要があります。場合によっては、言い間違いを指摘されたり言葉を知らない人だと誤解されたりすることもあります。

また、詳しい説明を避けるために「やんごとなき」を多用するのは、余計なトラブルを招いたり、相手に説明責任を果たさない人物だという印象を与えることにもなりかねません。会話をする相手や状況を選ぶ表現であると認識しておくことが大事です。

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