「諭す」の意味
「諭(さと)す」という言葉には二通りの意味があります。一つ目は神仏のお告げを伝え知らせるという意味です。二つ目は目上の人が目下の人に向かって物事の道理を言い聞かせて納得させる、あるいは教えみちびくという意味です。
しかし、現在では一つ目の意味で使われることはほとんどありません。したがって、ここでは二つ目の意味を吟味します。
「諭す」の使用例を参考にしてその意味を探る
以下の二つの例文について吟味してみます。
- 「上司が仕事の進め方について部下を諭す。」
- 「親がいたずらをした我が子を諭す。」
使用例:上司が部下を諭す
1の例文では、上司が部下の仕事の進め方について、ふさわしくない点を改めさせる目的で丁寧に言い聞かせ納得させようとしています。
将来性のある部下が順調に育つことを望む上司の思いを言外に表現するには、「諭す」を使用するのが適切です。
「怒るより諭す」と言いますが、まさにこの場合にぴったりの表現です。上司が怒ってしまっては、部下は話の内容よりも恐怖が先に立ってしまうかもしれません。それどころか、反感を植え付けるようなことにすらなりかねないのです。それでは全く逆効果です。
使用例:親が我が子を諭す
2の例文では、親が子供を良い子に育てるため、優しく丁寧に言い聞かせています。「諭す」を使用することにより、我が子に対する親の愛情が伝わってきます。「諭すように言い聞かせる」との言い方がありますが、まさにそのような情景を浮かび上がらせています。
子育ての格言に「一つ叱(しか)って三つ褒(ほ)め五つ教えて子は育つ」がありますが、2の例文の「諭す」はこの格言の「褒める、教える」に相当します。
「諭す」に込められた素晴らしい意味
このように、「諭す」には相手に対する思いやりや、愛情を示唆する素晴らしい意味合いが込められています。本来「諭す」は、目上の人から目下の人に向かって使うことが前提になっている言葉です。しかし、「諭す」相手は目下とはいえ大事な人なのです。
ちなみに、上の二つの例文で、「諭す」を「説教する」や「叱る」に入れ替えてみます。すると、上から目線の姿勢が強調され、「諭す」が本来持っている「教えみちびく」という意味がなくなってしまいます。
「諭す」の反対語「諫める」
「諫める(いさめる)」は、「諭す」とは反対に、目下の人が目上の人の言動に対して忠告し改めさせることを意味します。
例えば「進退をかけて上司の問題行動を諫める。」といった使い方です。この場合は、「諫める」方にそれなりのリスクを負う覚悟が必要です。ただし、「諭す」も「諫める」も相手の非を説いて改めさせるということでは同じ意味です。
「諭す」の類義語
日常的に使う「諭す」の類義語を集めました。それぞれ微妙にニュアンスが違います。
- 指導する・・・特定の目的が達成されるように教え導く。
- 説得する・・・よく話して納得させる。
- 説教する・・・堅苦しいたとえ話や教えを持ち出して意見や小言を言う。
- 戒める(いましめる)・・・過ちを犯さないために注意する。
- 忠告する・・・ちょっとした過ちや欠点などを指摘し、改めることを勧める。
- 躾ける(しつける)・・・子供やペットに習慣や作法などを身につけさせる。
「諭」を使った熟語
「諭」を使った熟語は、一般的に見かけるものでは次のとおりです。
- 教諭・・・幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員の正式な呼び名。
- 諭旨免職・・・訳を言い聞かせて職を辞めさせること。
「諭す」の英語表現
「諭す」を意味する英語は以下のとおりです。
- Admonish・・・《格式語:改まった言い方》(年上・上位の人が年下・下位の人に対して)忠告する・勧告する・諭す
- Reason・・・理を説く
- Advise・・・忠告する、助言する、勧める
【例文】
- I admonished Taro of his responsibility to his jobs.(私は太郎に仕事に対して責任があることを諭した。)
- I reasoned with Hanako on her mistake.(私は花子に不心得を諭した。)
- I advise you to stop smoking.(タバコをやめたらどうですか。)
AdmonishとReasonが「諭す」に近い英語です。Adviseは「諭す」よりも「忠告する」ニュアンスが強い言葉です。