「リリック」の意味
みなさんは「リリック」という言葉を聞いたことがありますか?「リリック」は抒情詩(じょじょうし)を意味する言葉です。
抒情詩は詩の分類のひとつであり、その定義は作者の感情を書き表した韻文であることです。しかし近年では、抒情詩はほとんど詩そのものとして扱われています。そのため、最近は「リリック」が歌詞、特にラップ曲の歌詞を表すようにもなりました。
「リリック」の使い方
先述のとおり「リリック」は名詞であり「抒情詩」を意味しますが、「リリカル」とすると「抒情的」という形容動詞として使用できます。例えば「中原中也のリリックに胸を打たれる」「彼の小説はいささかリリカルに過ぎるきらいがある」といった具合ですね。
ラップ曲の歌詞としてなら「あのアーティストの最新曲は、リリックはよいがフロウがいまいちだ」といった使い方ができます。
「ポエム」と「リリック」の違い
ところで、「リリック」の関連語に「ポエム」という語句がありますね。日本ではポエムを「口語体で書かれた音数に決まりのない抒情詩」と狭義に捉える場合もありますが、「リリック」と「ポエム」の違いはなんでしょうか?
実は「ポエム」とは「詩」そのものを指す言葉なのです。ですからポエムの分類のひとつとして、リリックが存在するわけですね。
しかし日本では前述のように「ポエム」を狭義に捉える傾向があり、また若年者の自己陶酔的な抒情詩を揶揄する意味で「ポエム」と呼んだりもします。
叙事詩・劇詩・叙景詩
抒情詩の定義をより明確にするため、それ以外の分類についても簡単に知っておきましょう。詩はその内容や目的によって、抒情詩・叙事詩・劇詩の3つに大別されます。
叙事詩(じょじし)とは
叙事詩は歴史上の出来事を書き綴った韻文で「エピック」とも呼ばれます。中世ヨーロッパでは吟遊詩人と呼ばれる人たちが、楽器を片手に叙事詩を歌い、神話や英雄譚を語り継いでいました。日本で言う琵琶法師のようなものですね。
琵琶法師のなかには軍記『平家物語』を歌う者もありました。『平家物語』は韻文のみで構成されているわけではないため、厳密には叙事詩とは呼べませんが、歴史上の出来事を綴った詩という点は共通しています。
劇詩(げきし)とは
韻文で書かれた戯曲のことを劇詩といいます。現在の戯曲の台本は散文で書かれるのが一般的ですが、かつては韻文で書かれるのが常識でした。そのため、劇詩は戯曲そのものを指す言葉だったのです。
しかし散文による戯曲が一般的となった近代においては、もはや劇詩イコール戯曲とは呼べず、散文と韻文の混在した戯曲や、ことに詩的な戯曲を劇詩と呼んだりと、その定義もやや曖昧なものとなっています。
叙景詩(じょけいし)とは
前述の叙事詩・劇詩に抒情詩を加えたものが詩の三大部門とされていますが、近年では抒情詩・叙事詩・叙景詩という大別が一般的になりつつあります。
叙景詩とは、景色をありのまま書き表した詩のことです。抒情詩にも景色は描かれますが、それは作者の心情を間接的に表現するためのものであり、叙景詩で描かれるありのままの景色とは本質が異なります。
ラップにおける「リリック」
ラップにおける「リリック」は歌詞のことですが、関連語に「フロウ」と「ライム」があります。フロウは歌いまわしのことで、ライムは韻を意味しています。
実際に歌ってみるとよくわかりますが、ラップは小節によってころころとリズムやアクセントが変わります。この変化が歌いまわしであり、フロウです。
ライムは押韻、つまり音を揃えればよいわけです。ただしリダクション(音の脱落)が発生する英語と違い、一音一音しっかりと発声する日本語においては、単語の母音をきっちりと揃えないと綺麗に韻を踏めない場合が多々あります。普段何気なく聴いているリリックも、緻密に計算されたフロウとライムによって成立しているわけですね。