「パクる」とは
「パクる」とは俗語ですが、現在の主要な辞書には掲載されている言葉です。辞書での意味には、以下の4つがあります。
- ぱくぱく食べる様子を表す擬態語パクリの動詞化。パクつく。
- 他人の財産をだまし取る・横領(おうりょう)する。
- 他人のアイデアを盗用する・剽窃(ひょうせつ)する。
- 警察が犯人を捕まえる。
ちなみに、俗語辞典にはさらに裏の意味も掲載されていて
- かっぱらう・かっさらう。
- 恐喝する(脅かして無理に賭博に加わらせる)。
現在ではカタカナを使って「パクる」と表記するケースが多いですが、ひらがなで「ぱくる」とすることもあります。また、名詞化した「パクリ」、複合語にした「パクツイ(パクったツイート)」などの使い方もあります。
「パクる」の使い方
- あわてておにぎりをパクる姿が、ユーモラスである。
- 最初からパクるつもりで、彼女に接近したわけじゃないよ。
- ネットからネタをパクるのは楽でいいが、あとでしっぺ返しを食らうのは怖い。
- 犯人をパクるのだけが、警察の仕事ではない。
TVドラマや小説などでは、4(警察が捕まえる)のような使われ方が多いかもしれません。日常会話の中では3の意味(盗用する)で使うケースが多いかと思われます。
英語で
cheat:だます・金品を巻き上げるということで、意味2になります。
swindle:金をだまし取る・詐欺を働くということで、これも意味2です。
lift:口語で、人の文章を盗む、剽窃するということで、意味3となります。
nab:口語的な使い方で、犯人をあげるという、意味4の「パクる」です。
「パクる」の多様な由来
「パクる」の語源説にはいくつかあって
- 口を開け閉めする様子の擬態語から:1の意味
- ドイツ語のpacken(包む・詰める)から:2の意味
- 捕縛(ほばく)するの変化:4の意味
- バクチで引ったくるの略:恐喝の意味
もしかすると、意味それぞれで違ったルーツを持っているのかもしれません。
大正〜昭和初期の俗語辞典にはすでに掲載があり、一般に広まってはいないものの、一部(裏社会?)では使われていたことが推測されます。
話題になった「パクる」事件
日常会話やSNSの中で「パクる」と使っているケースをチェックすると、おおむね「盗用する・剽窃する」ことを指しているようです。そこで、ネットでも大きな話題になった、「パクる」事件2例を紹介します。
東京五輪エンブレム
2015年に発表された、2020年東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムのデザイン(後に再公募)が、パクったものではないかとの疑惑が持ち上がり、大騒ぎとなりました。
疑惑がかけられたエンブレムのデザイン(佐野研二郎氏による)は、「T」の文字をイメージしたシンプルなものでしたが、ベルギーの劇場のロゴマークも同じ「T」をデザイン化したもので、並べて見ると確かに酷似しています。
佐野氏本人はもちろん「パクった」とは言いませんでしたが、この騒ぎの後、自らのデザインを取り下げました。決定はいったん白紙に戻され、再公募をする事態になるなど、ドタバタ劇となってしまいました。
中国の无印(無印)良品
中国には「无印(無印)良品Natural Mill」という、無印良品そっくりのブランド・ショップが存在し、日本の無印良品(以下、良品計画)との間で、法廷闘争を繰り広げています。
報道をもとに、2018年11月時点での経緯をまとめると、以下のようになります。
- 1999年:良品計画が中国で主要5カテゴリーの商標権を取得。
- 2001年:海南南華公司がタオルなど第24類(織物)について「無印良品」の商標を登録。これに対し、日本の無印側が取り消しを求めるも却下される。
- 2004年:北京棉田紡績品公司が、海南南華公司から「無印良品」の商標権譲渡を受け、「无印(無印)良品Natural Mill」を店舗展開。
- 2005年:良品計画が「無印良品」ブランドを中国に進出させる。
- 2012年:中国の最高裁が、良品計画の上告を退ける。
- 2017年:北京棉田紡績品公司が良品計画の上海法人を提訴し、勝訴。これに対し、良品計画側が控訴する。
- 2018年:良品計画が訴訟に関するコメントを発表。今後も断固として法的措置を取る姿勢を明確にする。
写真を見ると、无印(無印)良品は店構え、商品の並べ方から品ぞろえ、商品のデザインなど、似ておりましたが、訴訟の際には「我々(无印良品)が本家だ!」と主張するあたり、知的財産権に対する考え方のギャップが如実に表れていると言えそうです。
「パクる」と似た言葉との比較
真似・模倣(もほう):
良くも悪くも、形を似せるという意味があります。無断で真似て素知らぬ顔をしている(パクる)と、怒られることもあります。一方、真似をしつつ学習するというケースもあるので、一概に悪者扱いはできません。
パロディー:
有名な元ネタを、一見して分かるような形で作り変えたものです。元ネタがすぐに分からなくては意味がない点と、風刺や滑稽さが加わる点がキーになります。「パクる」ときには、基本的に元ネタを明らかにしないものです。
オマージュ:
尊敬や敬意を表したものという意味になります。元ネタが分かりにくい場合もあります。単純に真似してつくった(パクった)ものと、尊敬を込めてコピーしたものとの線引きは、難しいところです。