「ヒットエンドラン」の意味
「ヒットエンドラン」(「エンドラン」と略すこともある)という外来語は野球用語で、野球の戦術の一種を表します。野球は、簡単に言うと「投手が投げたボールを打者が打ち、ボールが転がっている間に走者が塁を一周回って、ホームに戻ってくれば得点」というスポーツです。
「ヒットエンドラン」の「ヒット」とは「打者がボールを打つ」、「ラン」は「走者が次の塁へ走る」という意味です。このため「ヒットエンドラン」とは、「投球と同時に走者がスタートを切り、打者はボールを打つことで、通常より早く次の塁へ走者を進めようとする戦術」という意味になります。この際、打者は「確実にボールを打つ」ことが成功の条件となります。
「ヒットエンドラン」の由来
「ヒットエンドラン」という戦術は、野球発祥の地である米国で考案されました。英語でもそのまま「hit and run」と表記されます。「打ち、同時に走る」といった意味を示します。発明された時期は古く、19世紀だといわれます。
当時のメジャーリーグ選手が原型を発案し、19世紀の終わり頃にはボルチモア・オリオールズで戦術として完成。実際に公式戦で実施されるようになりました。初めて行った試合では13回試して全部成功し、相手監督が「こんなのは野球じゃない!」と猛抗議したほどだったそうです。
野球は今でこそ投手の剛速球や変化球が多く、打者は容易にはボールを打てませんが、野球が「点取りゲーム」だった草創期には、なるべく打ちやすいように投げるのが慣例だったそうですから、こうした戦術は大変有効だったのかもしれません。
「ヒットエンドラン」の実例
「ヒットエンドラン」のメリット
一般に、ヒットエンドラン戦術のメリットとしては次のようなものが挙げられます。
- 打者が内野ゴロを打つと、野手が捕球したときには既に走者は次の塁近くにいるので、「併殺(ダブルプレー)」を防ぐことができる。
- 打者がヒットを打つと、通常走者は次の塁に1つだけ進むが、ヒットエンドランでヒットを打つと、さらにもう一つ先の塁まで進むことができ、より得点機が広がる。
- 走者がスタートした瞬間は「盗塁」と見分けがつかないため、二塁手(または遊撃手)は盗塁阻止のため2塁近くに移動する。このため1、2塁間(または三遊間)に大きな空間が生まれ、打者はヒットを狙いやすくなる。
「ヒットエンドラン」のデメリット
一方でヒットエンドランにはデメリットもあります。次のような点から、戦術としてはむしろ「リスクが高い」ものだと考えられています。
- 打者の打球がライナーになり、野手に捕球された場合(打者はアウトになる)、走者は既に塁を大きく離れているため、ほぼ確実に「併殺」になってしまう。
- 打者がボールを打つことに失敗し空振りすると、走者は単純に「盗塁」した形になる。しかし、通常の盗塁と異なり、ややスタートが遅れることもあるため、アウトになる確率が高い。
「ヒットエンドラン」の条件
「ヒットエンドラン」は成功すれば一気にチャンスが広がり、味方も盛り上がる痛快な攻撃戦術です。しかし現代野球では、投手の投球術が非常に向上しており、剛速球や鋭く変化するボールを打つのは、プロの打者といえども簡単ではありません。
ヒットエンドランは前述のように「打者が必ずバットをボールを当てる」ことが成功の〝最低条件〟ですので、失敗するリスクは比較的大きいプレーだといえます。このため現在は、(必ずしもそうとは限りませんが、)次のような条件下で行うことが一般的だとされます。
- 打者のカウントが「2ボール1ストライク」「3ボール1ストライク」などになり、投手が次に、打球を打ちやすいストライクを投げる確率が高い場合。
- 走者が塁上にいて、2アウトになり、打者のカウントが「3ボール2ストライク」のフルカウントになった場合。このケースでは次のボールで打者が三振や凡打になれば攻守交代、四球やヒットなら進塁できる。攻撃側には全くリスクがないので、ほぼ「自動的」にヒットエンドランが実行されます。
「ヒットエンドラン」のまとめ
もともとは野球用語の「ヒットエンドラン」ですが、簡略な英語だけに「打った後、すぐに走って逃げる」といった意味にとらえ、「一撃離脱」という軍事用語としても援用されることがあるそうです。野球に馴染みのない方には、女性お笑い芸人が叫ぶネタの「ヒットエンドラ~ン!」を思い出される方も多いかもしれません。これも「ギャグを言い放って、すぐに逃げる!」といった意味なのでしょうか…?