「アンチテーゼ 」の意味
アンチテーゼの元はドイツ語で「Antithese」と表記し、ある肯定的な主張(テーゼ)に対立する否定的な主張を意味しています。日本語だとよく「反定立」また単に「反」と表現されています。
このテーゼとアンチテーゼは止揚(アウフヘーベン)という過程を経てジンテーゼ(統合)に至ります。なぜこのような図式になるのか、個々の用語意味は何なのかは後述で詳しく解説しますので、まずは、この図式を頭に入れておいて下さい。
「アンチテーゼ 」の由来・解説
ヘーゲルの「弁証法」
まず、この言葉を用いた代表的な学者ヘーゲルの弁証法の大まかな解説をしたいと思います。ヘーゲルは近代に活躍したドイツの哲学者です。ヘーゲルは当時の哲学者たちの考え方にある不満を抱いていました。哲学とは「真に存在するもの」をどう認識するかの学問なので(*1)何よりもまず認識の方法が吟味されます。しかし、ここが大きな落とし穴だったのです。
それは、認識の方法に対してあれこれと批判や検討をしているうちに、「本当にこの方法でいいのか?」「もしこの方法が間違っていたらどうする?」という懐疑が強くなっていくのです。終いには、どのような方法を選んでもそれは人間が手を加えたものだから完璧に客観的とは言えないという極論まで出現します。
ヘーゲルの発想の転換
この袋小路を打破するために、ヘーゲルはある発想の転換をしました。従来は「真に存在するもの」(客観)に対して認識のする私(主観)や認識の方法を対立したものとして扱っていましたが、そもそもこの分別が自分自身の中で起きていることだと看破してのです。
というのは、人間は誰しもが自分の主観を離れることはできません。どこまでいっても完璧な客観には辿り着けないのです。新しい発見を得るというのは、自分の中で新しいものの見方を発見することです。真実には辿り着けないと落胆するのではなく、自分自身の知識やモノの見方を変えたり、バージョンアップすることによって向上していこうというのがヘーゲルの基本的な姿勢です。
「アウフヘーベン」と「ジンテーゼ」
このバージョンアップの過程が上記したテーゼとアンチテーゼのアウフヘーベンなのです。もう少し噛み砕いて説明すると、ある男が「白鳥は全部白い(テーゼ)」という考えを抱いていたとします。しかし、世の中に黒い白鳥(黒鳥)も存在します。それを知った男は「黒い白鳥も存在する(アンチテーゼ)」を受け入れて、「白鳥という種には白も黒もいる(ジンテーゼ)」と考え方を改めます。
つまり、「アンチテーゼ 」とは単に反対の意味や対義語なだけでなく、考えを改めるきっかけとなる事柄というニュアンスも含まれています。このことを踏まえて他の用語も説明すると、テーゼ=自分の主観による解釈、アウフヘーベン=自分の考えと違うものを受け入れる過程、ジンテーゼ=それによって新たに獲得した考え、物の見方となります。
「アンチテーゼ 」の類語
代表的な類語の違いを説明します。ただ、日常会話では殆ど差はありません。
「反対」
この言葉には抵抗や抗議のニュアンスもあるので、ややズレています。
「否定」
最も近い類語です。ただしアンチテーゼには変化の切っ掛けという意味が付随します。
「敵対」
闘争や抗争の意味合いが強いですが、作劇法などではアンチテーゼを敵対者として扱ったりします。
「アンチテーゼ 」の使い方
先ほど説明した通り、日常会話では類語と大した違いはなく、それほど厳密に使用しなくても大丈夫です。
「アンチテーゼ 」の例文
- この意見書は、上司へのアンチテーゼとして私が投函しました。
- 何か反論するならもっと明確なアンチテーゼを打ち出してくれ。
- この映画のテーゼを体現してるのが主人公で、敵はアンチテーゼを意味してる。
「アンチテーゼ 」のまとめ
「アンチテーゼ 」はヘーゲルの弁証法から広まった言葉なので、かなりややっこしいですが、他の用語との関係性を押さえておけばきちんと理解できると思います。