「件の」とは?意味や読み方をご紹介

「件の」と書いて「くだん-の」と読みます。「件」という漢字は小学校で習いますから皆さんご存じでしょう。では、「件の」といった場合の意味についてはいかがでしょうか。この記事では「件」そして「件の」の意味や使われ方をご紹介いたします。

目次

  1. 「件」の読みと意味
  2. 「件の」の意味
  3. 「件の」の用例
  4. 「件」伝説

「件」の読みと意味

人偏(にんべん)に牛と書いて「件」。本記事のテーマ「件の」について解説する前に、まずは「件」という漢字の意味からお話を始めます。

音読みの「件」

皆さんご存じのとおり、「件」は音読みで「ケン」と読みます。何らかの事柄について1件、2件と数えるときの助数詞として、あるいは「契約の件」「夏休みに旅行に行く件」「前に話した件」のように、特定の事柄について言及する際に用いられます。これらは日常的になじみ深い用法ですので、あらためてご説明するまでもないでしょう。

一点注釈するなら、後者の「~の件」といった使い方をする場合は、会話をしている双方がその事柄を知っているのが前提です。自分だけが知っている事柄について「~の件」といっても成立しないということです。「今度の旅行の件だけどさ……」といわれても、初めて聞く話なら相手は「?」です。

なお、実際の会話でなく、手紙やメール、あるいは小説であっても、すでに相手や読者にその事柄を伝えている場合には、「~の件」といえば意味が通じるので問題なく成り立ちます。

訓読みの「件」

続いて、訓読みの「件」について解説します。「件」は訓読みで「くだり」「くだん」と読みます。「くだん」は「くだり」が変化したものですが、それぞれ異なる意味を持っています。

「くだり」とは、ある程度分量のある文章について、特定の一部分を指し示すときに用いられる表現です。例えば、「あの推理小説の謎解きのくだりはよく出来ているなあ」といったいいまわしに接したことがあるのではないでしょうか。「件(くだり)」は「条」とも書きます

一方、「くだん」と読む場合は、ほとんどの場合「件(くだん)の」という使い方がされますので、次項で本記事のテーマである「件の」に話を進めましょう。

「件の」の意味

「件(くだん)の」という用法の示す意味は、音読みの項でご説明した「~の件」と同様です。つまり、会話の双方がすでに知っている事柄について言及するときに用いる表現ということです。ほかの言葉に置き換えるなら「例の」あたりが適当でしょう。

以下に例文を挙げてみます。

「件の」の用例

  • 件の引越しの話は結局どうなった?」……前に聞いた引越しの話はその後どうなった? という意味です。
  • 件の新入社員だが、やはり辞めてしまったよ」……以前からその社員について会話相手に話をしていたことがわかります。
  • 件の件についてはもう少し考えさせてください」……「くだんのけん」と読みます。訓読みと音読み両方を用いたユニークないいまわしですが、使われる機会は多いでしょう。

上記のいずれも「例の」に置き換え可能なことからもわかるとおり、「件の」は、指し示す事柄の内容を省略する表現といってよいでしょう。改めて状況説明しなくても意味が通じる事柄を、「件の」で済ませているわけです。

公的な文書などでは、文末を「よって件(くだん)の如(ごと)し」で締める場合があります。これは「ここまで記載してきた内容のとおりで間違いありません」という意味です。

「件」伝説

さて、ここまでお伝えしてきた本来的な意味以外に、「件(くだん)」と聞いて、ある奇妙な生き物のことを想像される方もいらっしゃるのではないでしょうか? 妖怪とも、古くからの都市伝説ともいうべき、「件」のことです。

「件」なる存在の逸話は、江戸時代にはもう記録が残されています。体が牛で頭部が人間、反対に体は人間で頭部が牛というパターンもありますが、人の言葉を話し、生まれて数日で死ぬが、死ぬ前に天災や悪疫(コレラや天然痘のような流行り病)、戦争などの「凶事」を予言して、その予言は必ず当たる、というのが伝説の基本的なフォーマットです(異説もあり)。

海外に目を向ければ、ギリシャ神話に登場する牛頭人身の怪物ミノタウロスも想起されますが、「件」の場合は「人」と「牛」を組み合わせた漢字をもとに創作されたのではないかとも思われます。

しかし、目撃談は数々あり、あまりに奇っ怪な外見と「予言」の不気味さから、「件」伝説はいまなおある種のリアリティーをもって語り継がれ、小説や漫画など、多くの作品のモチーフにもなっています。

字数の関係で詳細は省きますが、最後に「件」テーマの傑作小説、小松左京の「くだんのはは」から、強烈な印象を残すシーンを引用して、本記事の締めくくりとしましょう。

小松左京「くだんのはは」


その時、僕の見たもの、それは、――赤い京鹿子の振袖を着て、綸子の座布団に坐り、眼をまっかになきはらしている――牛だった! 体付きは十三、四の女の子、そしてその顔だけが牛だった。額からは二本の角がはえ、鼻がとび出し、顔には茶色の剛毛が生え、眼は草食獣のやさしい悲しみをたたえ――、そしてその口からもれるのは、人間の女の子の、悲しい、身も消えいらんばかりの泣き声だった。

小松左京「くだんのはは」(1968)


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