「アテレコ」と「アフレコ」
はじめに今回のテーマである「アテレコ」からご説明します。「アテレコ」とは、半分日本語、半分英語のような造語です。「レコ」は「レコーディング(録音)」のことで、「アテ」というのは「当て」を由来とする説が一般的です。では、何を当てるのかといえば、すでにある映像に合わせて「声を当てる(録音する)」のです。
例えば、洋画であれば日本語の吹き替えが必要となりますし、アニメなら当然、映像に声は入っていません。そこで、外国人俳優さんの声に替えて日本語のセリフを入れたり、無音状態のアニメのキャラクターにセリフをつけるのが「アテレコ」作業となります。
「アテレコ」の意味が説明されるときは、このように、自分ではない他者の映像に声を「当てる」ことだといわれる場合が多いです。
「アフレコ」との違い
一方、よく似た言葉「アフレコ」は、「アフターレコーディング」の略称ですが、じつはこれは和製英語で、英語圏では「ポストレコーディング」や「ダビング」という表現がされるようです。
古くは、映画撮影の際に映像だけ先に撮って、音声はあとからというケースが多くありました。これには音響技術の未熟さや、フィルムの節約といった要素があったと思われます。
よって、「アフレコ」という手法が生まれたわけですが、「アテレコ」と「アフレコ」の違いといえば、他人の演技に声を当てるか、演技者本人の声をあと録りするかぐらいで、作業としては大差ありません。現在では両者の線引きはあいまいになり、「アフレコ」と統一して称することが一般的になっているようです。
ロケ番組の制作過程
では、実際に「アテレコ(アフレコ)」が行われるまでの番組作りの過程をご紹介しましょう。ただし、これはあくまで一例です。
ここに海外ロケの旅番組があったとします。ベースはナレーション進行、出演者は日本語を話すタレントさんで、名所やお店を巡ったり、現地の人々へのインタビューがあったりする、よくある番組です。ロケにあたっては、あらかじめ大まかな台本が用意されており、それに従ってディレクターさんが指示を出しながら撮影が進められていきます。
この場合、タレントさんの話す言葉は、撮影と同時にそのまま現場で録音されています(同録)。一方、外国人の言葉も同様に録音されていますが、この段階では当然外国語のままです。
「アテレコ(アフレコ)」の出番
こうして撮影された映像素材を持ち帰って、そこから編集作業が始まります。素材は多めに撮られていますから、それを元に、1時間なら1時間、放映時間に収まるような構成が組み立てられ、ナレーション台本が書かれ、必要に応じて映像にテロップが追加されます。
ここでようやく「アテレコ(アフレコ)」の出番です。この例の場合、必要となるのは現地の人々の話し言葉の吹き替えと、ナレーションの録音です。前者は同時録音されたVTRを見て、事前に翻訳がなされ、台本に書きこまれていますから、担当者(主に声優さんやアナウンサー)が映像に合わせてそれをスタジオ録音するわけです。
ちなみに、同じ内容を話していても、外国語と日本語では必ずしも言葉の分量が一致するわけではないので、尺(時間)に収まるよう、適当に言葉を端折ったり、しゃべるスピードを変えたりといった調整が必要になります。
ナレーション録り
この吹き替え作業とだいたい同じタイミングで、番組進行のナレーション録りも行われます。映像はすでに完成状態に仕上がっていますから、スタジオでそれをモニタリングしながら録音していくのです。
あとはBGMや効果音を足せば、そのまま放送できるいわゆる「完パケ」が出来上がります。
終わりに
以上が番組作りの簡単な例です。もちろん撮影より以前に企画会議があり、必要に応じてロケハンがありといった具合に、段階を踏んでいくつもの工程があって、無数ともいえる数々の番組が、タイトなスケジュールに追われながら日々生みだされていくのです。「アテレコ(アフレコ)」もその重要な一部です。
ふだん何気なく視聴し、翌日には忘れてしまうような番組であっても、そのひとつひとつに多くの人たちの汗がにじんでいるのは間違いないでしょう。そう思うと、番組の見方もちょっと違ってくるのではないでしょうか。