「琴線に触れる」の意味とは?
「琴線に触れる」(きんせんにふれる)とは、ある物事が人の心を揺り動かし、強く感動したり、深く共鳴したりすることを表す言い回しです。ここで言う共鳴とは、同じような考えや思いを抱くことを指します。
もともとの「琴線」の意味は、和楽器の琴に張られた糸(弦:げん)です。さわると美しい音が鳴る琴の弦は、何かに感じ入って揺り動かされる感情や心情の例えとしても用いられます。「琴線に触れる」の「琴線」はこちらの意味です。
「琴線に触れる」の使い方
「琴線に触れる」は、感動したり共感したりすることを表しますが、良いこと、素晴らしい出来事に対して使う言葉です。「(人の)琴線に触れる」という表現だけでなく、「心の琴線に触れる」などの言い回しでも用いられます。
強く感動する
強く心を動かされることを表す「琴線に触れる」は、自分が体験した出来事、人や物の有り様などに対して使います。例えば、鑑賞した芸術作品、人づてに聞いた良いエピソードなどです。
【例文】
- 年末に聴いたベートーベンの『第九』第4楽章の「歓喜の歌」の合唱は、人の心の琴線に触れる素晴らしい演奏だった。
- 『忠臣蔵』のような勧善懲悪のストーリーは、古来から現在に至るまで日本人の琴線に触れるものがあるようだ。
- 海辺の入り日に照らされたオレンジ色の美しい風景は、彼女の心の琴線に触れたようだった。
- 犬が小さな保護猫を熱心に育てる動画は、多くの人の琴線に触れ、再生回数が上昇している。
感じ入り共鳴する
「琴線に触れる」は、人の言動や動物の行動などに対して、心から共鳴する気持ちが沸き起こる状態を指すときにも使います。これにより、物事を肯定的に受け止め、印象深く心の内に残る様子を表せます。
【例文】
- シャチの親が子供を生かそうと必死で守るエピソードは、我が子を大事に思う親の琴線に触れたようだ。
- 著名な経営者が書いた自伝は多くの読者の琴線に触れ、心持ちや生き方を真似したいと考える人も増えてきた。
- 講師の海外での体験談は、多くの生徒の心の琴線に触れ、人種差別への意識を改めるきっかけになったようだ。
- 声高に困っていると訴えてみても、その場の人の心の琴線に触れることはなかった。
「琴線に触れる」の類語・類似表現
感慨深い
「感慨深い」(かんがいぶかい)とは、物事について心の奥底から深く身にしみて感じることを表す言い回しです。
「感慨」自体に「心から感じる」という意味があり、後に「深い」と続くことから感動の気持ちが一層強いことを表しています。
【例文】
- 成長した教え子の姿を見て、感慨深い気持ちになった。
- 同級生が名誉ある賞を授与されることになった。小さい頃から努力してきたのを知っているので、非常に感慨深い。
感銘を受ける
「感銘を受ける」(かんめいをうける)とは、強い印象を受けて深く感動することです。「感銘」は、ある物事で忘れられないくらいに深く感じ入ること、この場合は「受ける」で自分の身に強くしみ入る様子を表しています。
「感銘を受ける」はかたい言葉なので、日常会話よりは改まった場で使われます。職場の面接や履歴書で、人の言動、小説や絵画などの作品に深く共感したことを伝えるために使ったことがある人も多いでしょう。
【例文】
- 御社の理念やボランティアなどの福祉活動を知り感銘を受け、入社を志望しました。
- 課長の仕事への取り組み方を聞き、強く感銘を受けた。
- 私が今までで一番深く感銘を受けた本を紹介します。
心が揺さぶられる
「心が揺さぶられる」(こころがゆさぶられる)という言い回しは、ある物事で非常に強く感動することを表す表現です。
【例文】
- Aさんが献身的に両親を介護する様子に、心が揺さぶられた。
- 嫌われていると思った相手に、思いがけなく優しい言葉をかけられた時には心が揺さぶられる思いがした。
驚嘆
「驚嘆」(きょうたん)とは、ある出来事に直面して、驚きながらも感動する様子のことです。「驚嘆する」「驚嘆に値する」(驚嘆する価値のある素晴らしいことという意味)などといった形で使われます。
【例文】
- なんと素晴らしい傑作だ!驚嘆に値する。
- 彼の今までの苦労話を聞いて、よく耐えられたものだと、皆で驚嘆していた。
「琴線に触れる」誤用に注意!
平成19年度(2007年度)の文化庁による「国語に関する世論調査」では、「琴線に触れる」の意味を正しく答えられた人は約37%でした。
誤った人の約35%は「人の怒りを買う、相手を怒らせる」と誤答していることから、「逆鱗に触れる」(げきりんにふれる)と混同していると考えられます。
「逆鱗に触れる」とは、目上の相手をひどく怒らせることです。竜の顎の下に1枚だけ逆さに生えた鱗(うろこ)に触ると、竜が怒り狂って相手を殺すことに由来します。竜は、古くは君主の例えとして用いられましたが、時代が下って目上を指すようになりました。
【誤用の例】
- 彼女に「太った?」とからかうように聞いたら、琴線に触れてしまいビンタを食らった。
- SNSにコメントを残したら、相手の心の琴線に触れてブロックされてしまった。