「犇めく」の読み方と意味とは?
「犇めく」と書いて(ひし-めく)と読みます。これは、人や物が多く集まっていること、また、集まって互いに押し合い騒ぐという意味です。
「犇」の字義は、牛が群れているところに何かがあって驚いて慌てて走る、もしくは逃げるということです。牛が集団でいる様子から「犇めく」の意味が派生しています。
古語の例
次の例の「犇めく」は現代語と同じように「ある場所に多くの人や物が押し合うようにしている様子」を表しています。
原文:京より御使ありとて犇めきけり
訳:京よりお使いの者があると大勢の人が集まった。
また、現代語ではあまり見られませんが、古語では「犇めく」は「軋んで音がする」という意味でも使われました。擬声語でいうと「ぎしぎし」や「ひしひし」という表現に近いです。
原文: 「いとど奥の方より、物の犇めき鳴るもいと恐ろしくて」
訳:さらに奥の方から、ぎしぎしと軋んで物音がする様子がとても恐ろしくて
「犇めく」の使い方
単に人や物が集まっているだけの状態に対しては「犇めく」を使いません。「犇めく」は、ある一定の場所に隙間なくぎっしりと密集している様子、さらに、混雑している中ぶつかり合うようにして騒ぎ立てているさまを表す言葉です。
また、スポーツなどにおいて、「犇めく」は大きな集団を形作って競い合っている様子を描写することもあります。
「犇めく」の例文
- ラッシュアワーで多くの人が犇めき合い、降りてくる人はみんなぐったりしている。
- 事故現場では野次馬が犇めいて、救護の邪魔になっていた。
- 池で餌やりをしたらたくさんの鯉がすごい勢いで犇めいてきて、驚いた。
- 下町では多くの民家が犇めくように建っている。
- 今回のマラソンでは、多くのランナーがトップ集団に犇めいています。
「犇めく」の類語
押し合いへし合い
「押し合いへし合い」(おしあいへしあい)は、人や物が集まってぶつかりあう様子を表します。「犇めく」とよく似た言い回しです。
文字通り、「押し合い」は互いに上や横から力を加え合うことを言います。一方、「へし合い」は漢字では「圧し合い」と書きますから、押さえつけ合うという意味です。「押し合いへし合い」は似た意味の言葉を重ねて強調している表現であることが分かります。
【例文】
- 台風の影響で終電を早めるというので、最終に近くの時間帯の車内は押し合いへし合いの状態だ。
- タイムセールで、客が商品を取ろうと押し合いへし合いしていた。
群がる
「群がる(むら-がる)は、ある場所に多くの人や動物が一斉に寄り集まる・動物が群れをなすことをいいます。「犇めく」と密集して集まる様子とよく似ていますね。なお、「叢がる/簇がる」は「群がる」の別表記です。
【例文】
- ドラマのロケ地で、人気の女優や俳優を一目見ようと多くの人が群がった。
- 神社の鹿に餌をやろうとしたら、次々に群がってきた。
混雑する
「混雑する」(こんざつ-する)のもともとの意味は、雑多に秩序なく入り混じることです。そこから「犇めく」と同じような意味も派生し、多くの人などがある場所に集まって非常に混み合うことも表します。
また、「混雑する」には揉め事やいざこざが起こるという意味もありますが、現代ではあまり使われません。
【例文】
- 混雑するのを避けるため、早めに車を出して目的地に向かった。
- 何か混雑するなと思ったら、著名人のサイン会があったそうだ。
ごった返す
「ごった返す」(ごったがえす)は、雑然として非常に混み合う様子を表す言い回しです。「ごった」は色々なものが混じって雑である様子、「返す」はこの場合、上下を逆にするなど、物の向きが正反対になって整っていない状態を表します。
「ごった返す」の秩序なく混雑している様子は、「犇めく」のぶつかり合い騒がしい様子とよく似ていますね。
【例文】
- 旅行客でごった返している空港ロビーで、遊びに来た故郷の友人にようやく会えた。
- 夏の海水浴場は、若者や家族連れでごった返す。