「してくる」とは
「してくる」は、「する」という動詞の連用形+接続助詞「て」+補助動詞の「くる」から構成されている複合動詞です。この記事では、「する」の部分を他の動詞に置き換えた、「行ってくる」「聞こえてくる」のような複合動詞も含めて解説していきます。
「してくる」の意味
普段はあまり意識することはないかもしれませんが、「してくる」に代表される[動詞の連用形]+「て」+「くる」の意味は、大きく分けて次のように分類することが出来ます。
- 状態変化:あるものの状態が変化し始めること…「雨が降ってきた」「近頃痩せてきた」
- 動作の継続:ある動作や状態が現在まで続いていること…「注意してきた」「経験してきた」
- 動作の順序:ある動作をしてから戻ること…「買ってくる」「電話してくる」
- 移動の状態:ある動作や状態のまま近づくこと…「走ってくる」「押し寄せてくる」
- 一方的な動作:ある動作が一方的に行われること…「文句を言ってくる」「送信してくる」
「してくる」の使い方
1.あるものの状態が変化し始めること
1の意味の「してくる」は、あるものの状態が変化し始めることです。これには「香ってくる」「薄れてくる」のように、無かったものが現われ始める・在ったものが消え始めることも含んでいます。
【例文】
- 気が早い息子は、育てている朝顔が発芽してきてすぐに支柱を立てた。
- 近頃めっきり寒くなってきたから、風邪に気をつけなさい。
- そろそろ外回りの社員達が帰ってくる時間だ。
- この山道を走り続けると、やがてロッジが見えてくる。目的地はそこだ。<出現>
2.ある動作や状態が現在まで続いていること
2の意味の「してくる」は、「今まで○○し続けてきた」「ずっと○○してきた」ことを表すときに用いられます。現在までの状態の継続を表現するため、「くる」は完了を表す「きた」の形を取る場合が多いようです。
【例文】
- 彼はゲーム業界を牽引してきたトップクリエイターだ。
- 彼女は寝食を忘れるほどに研鑽を積んできた。
3.ある動作をしてから戻ること
3の意味の「してくる」は、「○○をしに行った後に帰ってくる」ことを表します。つまり、「○○」→「くる(戻る・帰る)」という二つの動作のが行われる順番を指しているのです。
また、この「~してくる」は出掛けたり席を外したりする際の挨拶代わりのフレーズとしても用いられます。
【例文】
- 植木に水をやるついでに玄関先を掃除してきた。
- 冷蔵庫が空っぽだから、コンビニで弁当を買ってくるよ。
- 息子夫婦から旅行をプレゼントされたので、楽しんでこようと思っている。
- (会社に)行ってくるね。<挨拶>
4.ある動作や状態のまま近づくこと
4の意味の「してくる」とは「○をやりながら来る・○○の状態のままでこちらに来る」ことです。これには、移動するときの状態や移動手段を指す場合も含まれます。
【例文】
- 秘書が来訪したクライアントを案内してきた。
- 名前を呼ばれた子犬が嬉しそうに駆けてきた。<移動の状態>
- 通勤はいつもは自転車だが、今日は雨だったので電車に乗ってきた。<移動手段>
5.ある動作が一方的に行われること
昨今、ハラスメントに対する意識が高まっているせいか、一方的に迷惑を被っているという含みを込めて、意味5の「してくる」が用いられるケースが散見されます。しかし、解釈によっては意味5は、意味2や3に分類されることもあるでしょう。
【例文】
- 今付き合っている彼女はしょっちゅうLINEしてくる。
- あのお客様はいつも難癖をつけてくるので対応が大変だ。
「してくる」と「していく」
「していく」とは
「してくる」と似た構造の言葉に「していく」があります。これも、[動詞の連用形]+接続助詞「て」+補助動詞「いく」から成り立っている複合動詞です。
「してくる」と「していく」の違い
「していく」も「してくる」と同じ基準で意味を分類することが出来ます(下表参照)。「してくる」と「していく」の違いは、状態変化の仕方、動作の起点となる時間、動作のベクトルなどです。
「してくる」 | 「していく」 | |
---|---|---|
1.状態変化 | 伸びてきた <開始> |
伸びていく <進展> |
2.動作の継続 | 努力してきた <過去~現在> |
努力していく <現在~未来> |
3.動作の順序 | 買ってくる <○○する→戻る> |
買っていく <○○する→行く> |
4.移動の状態 | 歩いてくる <近づく> |
歩いて行く <遠ざかる> |
5.一方的な動作 | 配ってくる <される側の発言> |
配っていく <する側の発言> |