「慕う」の意味
「慕う(したう)」には、以下のように複数の意味があります。
- 恋しく懐かしく思う。
- 離れがたいと思い、後を追っていく。
- 理想的な人物や状態などに引かれて追い求める。
- 昆虫や魚が光に寄ってくる。
1~3の意味については、以下で具体的に使い方をご紹介します。ちなみに、4の意味については、昆虫や魚が光に向かって集まってくる性質のことを指しており、「明かりを慕って虫が集まる」「船のライトを慕って魚が寄ってくる」のように使います。
「慕う」の使い方
1.恋しく懐かしく思う
「恋しい」には、離れている人や場所などに強く心を引かれて「会いたい」「行きたい」といった気持ちを抱くという意味があります。そして「懐かしい」は、過去のことを思い出したり、久しぶりに見たり聞いたりしたものに心が引かれる気持ちを意味します。
離れている故郷や国などの場所や、離れて暮らしている家族などの人に対して心が強く引かれることを表すときに「慕う」という言葉で表します。
また、時代劇などで、特定の異性を愛する気持ちを表すのに「お慕い申しておりました」などと言うことがありますが、こちらは古い使い方です。
【例文】
- 父が離れてから何十年も経っている故郷を慕う姿を見ると、切ない気持ちになる。
- 兄のことをとても慕っている弟は、しばらく会っていないというのに、だんだん兄に似てきたように感じる。
2.後を追っていく
この意味で使う場合には、恋しく思うあまりに離れがたくなって後を追っていくことを表します。たとえば、母親と離れ離れになろうとしている子どもが、母親の後を追っていくような状態です。
また、この意味で「慕う」という言葉を使うのは「人」に対してだけではありません。「動物」に対して用いる場合もあります。たとえば、ペットが離れていく飼い主の後を追っていくことを指して「飼い犬が飼い主を慕ってついていく」のように使うこともできます。
【例文】
- 病気療養のためにしばらく離れて暮らすことになる母親を慕って、子どもたちが泣いていた。
- 最近飼い始めた子犬は、息子のことを慕っていろいろなところについて行こうとする。
3.理想的な人物や状態などに引かれて追い求める
「理想的な人物」とは、人柄や性格、能力などに憧れたり尊敬したりして「自分もあんなふうになりたい」と思わせるような人物のことです。そして「理想的な状態」は、その人の仕事や学問などに向かう姿勢・態度や、広い知識や教養を持っている状態などのことを指します。
この2つの違いはわかりにくいかもしれませんが、その人自体を尊敬することはできなくても、その人の仕事への向き合い方は尊敬できるという場合をイメージしてみてください。この場合、仕事への向き合い方については「慕っている」ということですね。
この意味での「慕う」という言葉は、特に、目上の人への尊敬や憧れの気持ちを表す場合に使われます。
【例文】
- 社長は人格がとても優れているので、彼を慕ってこの会社で働きたいと望む人は多い。
- 私は学生の頃から、先輩の研究に対する姿勢を慕っている。
「慕」という漢字を用いた熟語
慕情(ぼじょう)
「慕情」とは、心が引かれて「後を追いたい」「近くにいたい」と思う気持ちのことです。特に、異性のことを恋しく思う気持ちを指して使うこともあります。
【例文】
- 彼に対して慕情を抱く彼女の姿を見ていると、こちらまで切ない気持ちになってくる。
- 慕情を描いた歌や小説が多いのは、それだけ人々が共感するということだろうか。
敬慕(けいぼ)
「敬慕」は、その人のことを心から尊敬して「その人のようになりたい」と思うことを意味します。尊敬の念も表す言葉ですから、自分にとって「師」と呼ぶような存在である人に対して使うことが多いようです。
【例文】
- 敬慕している恩師にお会いするときには、いつも極度に緊張する。
- 私が誰かに対して敬慕の念を抱くときが来るなんて思いもしなかった。
追慕(ついぼ)
「追慕」には、亡くなった人や遠く離れていて会えない人のことを思い出して恋しく思うことという意味があります。また、過去の出来事を思い出して懐かしく思うことを意味する場合もあります。
【例文】
- 亡くなった、大好きだった祖母のことを追慕する。
- 遠く離れて暮らしている夫への追慕の念がつのり、思わず涙が出る。