「長ける」の意味
「長(た)ける」は、ある分野において資質や才能を十分に持っている、 経験を積んで上達していることを指します。ここでの「長」の字は「物の長さ」には関係がありません。熟語でいえば「長所」や「特長」で用いられる「優れている」の意味です。
ところで、辞書には、「たける」の項目に「長ける」と「闌ける」が併記されているものと、「長ける」と「闌ける」の意味を区別しているものがあります。ここでは、「長ける」と「闌ける」とに分けて解説していきます。
「長ける」の使い方
「長ける」は、人に対しても用いられますが、無生物や性質などを主語にとることもあります。
【例文】
- この作家は情景描写には長けているが、心理描写には不満が残る。
- 彼女は場の空気を読むのに長けているので、人間関係で失敗しない。
- 書道に長けている祖母は、よく賞状の清書を頼まれている。
- この骨董品店は、西洋骨董に長けている。
- 乗り継ぎに選んだのは、空港に近く、利便性に長けている航空会社のホテルだった。
「長ける」を用いた慣用表現
「長ける」を含むよく使われる言い回しに「世故に長ける」や「世知に長ける」があります。両方とも、世の中のことをよく分かり、上手に世間を渡ることを表す慣用句です。
ちなみに、「世故(せこ・せいこ)」は世間の事情や慣習・俗事、「世知(せち)」は世渡りの才能や抜け目のなさを指しています。
【例文】
- 彼女は見た目こそ世間知らずのお嬢さんだが、意外と世故に長けている。
- いくら彼が世知に長けているといっても、一人で商売を切り盛りするのは大変だろう。
同音異字の「闌ける」
「長ける」の同音異字の「闌ける」は、季節や日、年齢が盛りになること、盛りを過ぎるという意味です。
【例文】
- 春も闌けて既にツツジの季節なのに、なぜか桜が満開だ。
- 陶芸の出来が気に入らず、必死で修正を繰り返していたら、いつの間にか日が闌けていた。
- いつも窓辺の席で同じ時間にコーヒーを飲んでいる年闌けた女性が気になる。
「闌」という漢字は「ラン」または「たけなわ・た(ける)・てすり」と読みます。あまり使う機会がない漢字かもしれません。身近なところでは、「宴(えん)もたけなわ」というときの「たけなわ(闌)」でしょうか。
「長ける」の類語
「長」が共通する「長じる」
「長(ちょう)じる」「長(ちょう)ずる」は、漢字「長」から派生した動詞です。成長する、すぐれる、程度が甚だしくなるなど意味を持ち、「長ける」とほぼ同じように用いられます。
【例文】
- 芳一は琵琶の演奏に長じた法師だった。
- あのサッカー選手はパス回しに長じているが、シュート力も相当のものだ。
「長ける」と「優れる」の違い
「優れる」は、能力だけでなく、価値や容姿などが他よりも良いことを言います。そのため、能力に限定している「長ける」よりも広い事柄について用いることができます。しかし、「長ける」のように長く経験を積んだというニュアンスはありません。
例1:「容姿に優れていることに胡座をかいて努力を怠ってきたせいで、何も長けたところのない大人になってしまった。」
例1の文で考えてみると、容姿に対して「長ける」は使えませんが、「優れたところ」と言い換えても間違いではありません。しかし、「努力を怠ってきた」という時間を汲むならば、「長ける」を用いる方がニュアンスを活かせるでしょう。
「長ける」と「秀でる」の違い
「秀でる」は、特にすぐれている、目立っていることを表すので、他者と比べて勝っているということを強調するニュアンスです。能力について用いられる点は「長ける」と同じですが、経験を重ねてきたという含みはありません。
例2:「あの派遣社員は事務作業全般に長けているが、特に表計算ソフトの使いこなしに秀でている。」
例2の文章で考えると、「秀でる」と「長ける」を相互に入れ替えても意味は通じます。ただし、それぞれのニュアンスは変化してしまいます。