「凌ぐ」とは?
「凌ぐ」(しの-ぐ)という言葉の核たるイメージは、「物事をおのれの下に押し伏せる」というものです。
これを基として、以下のように多様な意味を持ちますが、日常で見聞きするのは1番目と2番目の意味にほぼ限られています。
- 障害・困難などと闘って、それを乗り越える。また、それを我慢する。
- 数量・程度・力量などが、ある基準を超える。凌駕する。
- 物を押し伏せる。踏みつける。おおいかぶさる。
- 山・波などをのりこえる。
- (人を)あなどる。いやしめる。
ここでは、これら5つの意味・使い方を順番に解説します。
「凌ぐ」の使い方
1.障害・困難を乗り越える
「凌ぐ」の基本的な意味として、障害や困難を乗り越える、または耐え忍ぶ(我慢する)というものがあります。一般的にはひらがなで「しのぐ」と書かれることのほうが多いでしょう。
「夏の暑さを凌ぐ」のように、人間の手ではどうしようもない自然の困難を何とか耐え忍ぶというニュアンスで使用されることが多いのですが、障害に類するものであれば「世の中を凌ぐ」といった形で使うこともできます。
【例文】
- 猛吹雪の中、男は急ごしらえのかまくらとわずかな食糧で夜を凌がなければならなかった。
- 戦後の困難な生活を凌ぎ切った世代は、精神の強さが違う。
2.数量・程度・力量などがある基準を超える
もうひとつ、日常でもよく見聞きする「凌ぐ」の意味として、「何らかの数量・程度・力量などがある基準を超える」というものがあります。
この場合、「凌ぐ」の主語となるものの能力や性能が、その比較となるものよりも優れている・勝っているという文脈で使われることが多く、基本的にはポジティブな意味です。比較対象を貶めるニュアンスはありません。
【例文】
- A君の数学的な才能は、稀代の秀才と言われたB君のそれを凌ぐ。
- 今年のワインの出来は、最高傑作と言われた去年の品質を凌ぐ。
3.物を押し伏せる・覆いかぶさる
「物を押し伏せる・覆いかぶさる」という意味の「凌ぐ」は、現代ではあまり使用されません。万葉集などの古典では、ある程度の使用例があります。
【例文】
(奥山のすげの根を覆いつくして降った雪が消えるように、この身も消えてしまうだろうか、恋の気持ちが増すがために)
万葉集
4.山・波などを乗り越える
「山・波などを乗り越える」という意味の「凌ぐ」も現代ではあまり使われていません。文学的な表現の中では、「波を凌いで船が進む」などの使用例がみられることがあります。
【例文】
(天の川の白波を乗り越え、落ちたぎる早瀬を渡って、(中略)漕いでくる、その男が)
万葉集
5.人をあなどる
「人をあなどる」という意味の「凌ぐ」は、人を押しのけるさまから生まれた意味と考えられますが、今日ではあまり使用されていません。こちらも、用例が見られるのはやや堅めの文学作品の中などに限られます。
【例文】
- 彼は詐欺で生計を立てている、どこまでも人を凌いだ悪党だ。
「凌ぐ」の英語表現
「凌ぐ」は多義的な言葉ですので、英語で表現する場合にも、意味に応じた単語や表現を用意する必要があります。
日常でよく見聞きする「能力や出来などがある基準を超える」「障害や困難を乗り越える、我慢する」という意味に絞りますと、「凌ぐ」の英語表現は「surpass」(のりこえる、~より勝る)が適切でしょう。
他にも「bear」(耐える)や、「get/have an advantage over ~」(~より優れる)などの表現を使うこともできます。
例文
- He hopes one day to surpass the world record.(彼はいつの日か世界記録を凌ぐことを望んでいる)
- It was a season that was easy to surpass.(凌ぎやすい季節になった)