「飽き足らず」とは
「飽き足らず」は、古語「あきだる(飽き-足る)」の未然形に打消の助動詞「ず」が付いたものです。現代語に言い換えると、「飽き足らない」または「飽き足りない」となります。
「飽き(る)」という言葉からは、うんざりしている状態をイメージすることが多いと思います。しかしそれは裏を返せば、「満足していて、もうこれ以上は必要としない気持ち」であるということです。
「飽食」や「飽和」といった熟語を連想していただけると、「飽きる」という言葉に「もう十分だ」というニュアンスがあることに納得できると思います。
また「足りる」は十分であることを意味します。「事足りる」や「満ち足りる」の‘足りる‘と同じ使われ方です。
すなわち「飽き足りる」とは、「十分に満足する」という意味、そしてそれを打ち消す「飽き足らず」という言葉は「十分に満足する気持ちになれない(物足りない)」という意味になります。
「飽き足らず」の用法
前述の通り、「飽き足りる」は、古語「あきだる(飽き-足る)」がもとになっています。そして「あきだる」は万葉集の頃から「~ぬ」「~ず」と下に打消しの語を伴った形で用いられていることが多く、現代でもこの用法が一般的です。
「飽き足らず」の例文
- 映画を見ただけでは飽き足らず、原作を購入した。
- ケーキ大好きな友人が、食べ歩きだけでは飽き足らず、自分でも作れるようにとお菓子教室に通い始めた。
- 父はジョギングを日課にしているが、家の周りを走るだけでは飽き足らず、いよいよマラソンに参戦するらしい。
- 各地を回って撮りためた絶景を自分だけで楽しむだけでは飽き足らず、インスタグラムで皆さんにもご紹介することにします。
万葉集にみる用例
ここで、万葉集で用いられた「飽き足らず」の例をご紹介します。
(陰陽師磯氏法麻呂:万葉集第五巻836)
訳:梅の花を手で折って髪に挿して遊んでも、飽き足りない(満足しきれない)思いがするのは今日(のこの宴会)ですよ
(作者未詳 、雑歌:万葉集第十巻 2009)
訳:あなたの愛しい織姫星は、短すぎる逢瀬の時が物足りなく雲に隠れるまで袖を振っていたろう
「飽き足らず」の英語表現
「飽き足りない」状態を英語で表現する際には、「satisfy(満足させる)」という単語を使います。「satisfy」を「satisfied」と受動態で用いて「満足する」、そこに「not」を付けて「物足りない(=飽き足りない)」という意味になります。
・We are not satisfied with his explanation.(彼の弁明では物足りない)
あるいは、「leave something to be desired」を用いることで、物足りない気持ちを表現することもできます。
・This work leaves something to be desired.(この作品には何か物足りないところがある)
しかし、これらはいずれも「条件は満たしているのだけれど、あともう一歩」というニュアンスになります。日本語の「飽き足らず」の使われ方と完全に一致するものではないので、注意が必要です。
「飽き足らず」まとめ
「飽き足りる」という言葉自体は存在しますから、十分に満足している気持ちを「飽き足りる」と表現しても間違いではありません。
しかし、この用法は一般的ではないうえに、「飽き(る)」という言葉にはネガティブなイメージがありますから、本意を伝えるのに適しているとは言えないでしょう。
十分に満足している気持ちを伝えたい時には、「堪能している」や「満喫している」などの表現を用いるとよいですね。