「アシンメトリー」とは?
「アシンメトリー」(asymmetry)とは、「左右非対称」を意味する言葉です。正面から見たとき、左右の造形や図柄が同一でない状態のことをいい、デザインにおける様式美のひとつです。
「左右対称」を意味する「シンメトリー」(symmetry)に、「否定」を表す接頭辞「a-」がついた形であり、「左右対称ではない」=「左右非対称」という意味となっています。
「アシンメトリー」と「シンメトリー」は一対の言葉として覚えておくとよいでしょう。
発音について
「アシンメトリー」は英単語「asymmetry」が元になった言葉です。最初の「a」の発音記号は[a]ではなく[ei]ですので、原語に従えば発音は「エイシンメトリ」が近いでしょう。
しかし、カタカナ語としては「アシンメトリー」が定着しており、シンメトリーではないことを強調するために「ア・シンメトリー」と、最初の「ア」を強調する読み方をする方も少なくありません。
したがって、カタカナ語としては「アシンメトリー」の発音で問題ありません。しかし、英語圏の方に意味を伝えたいときには、そのままの発音では伝わらない可能性が高いためご注意ください。
「アシンメトリー」:ヘアスタイル
ヘアスタイルのひとつに、「アシンメトリー」があります。正面から見たとき、左側が長く右側が短いなど、わざと左右の見た目を不均衡にした髪形がアシンメトリーです。
省略して「アシメ」と呼ばれることもあり、髪の長さやまとめ方と合わせて「アシメショート」「アシメ風バング」などと表現されます。お手軽に躍動感やおしゃれな雰囲気が出せるため、メンズ・レディースともに人気度が高いヘアスタイルのひとつです。
おおげさに左右非対称を意識する必要はなく、いつもセンターパート(額の中央)で分けていた前髪を、片方だけサイドに寄せてみる工夫でも、アシンメトリースタイルを表現できます。
主な使い方
- 今年の夏は、ほんの少し額を出したアシンメトリーのヘアアレンジで、ナチュラルで素朴なニュアンスを作るのがトレンド。
- いつも活発な彼女には、明るめのカラーリングとアシメショートがよく似合う。
「アシンメトリー」:ファッション
ファッション業界にも「アシンメトリー」は存在し、左右・前後が非対称の服装やスタイルのことを指しています。左右だけではなく、前後についてもアシンメトリーを表現するのが、この業界でのポイントになります。
例えばスカートと言えば、放射状に広がる左右対称形のデザインを思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし長さや色の違う布を合わせたり、スリット(切れ目)を入れたり、装飾を加えたりすることで、「アシンメトリースカート」が出来上がります。
シンメトリースタイルが調和や完全性を表すとすれば、アシンメトリーのそれはドラマ性や揺らぎを表現するといえるでしょう。
主な使い方
- 縦横の線が見えないアシンメトリーのパッチワークで、自然でこなれた感じを演出する。
- 次のステージ衣装は、派手な色をちりばめたアシンメトリーのドレスだ。
「アシンメトリー」:アート
アート・芸術の世界にも古くから「アシンメトリー」の様式美が存在します。「均衡、完全、安定、規則的」を旨とするシンメトリーとは対照的に、アシンメトリーは「不均衡、不完全、不安定、不規則」を象徴します。
ランドマーク、神社仏閣、城・宮殿など、建造物においては完全で安定したシンメトリーが好まれる一方で、絵画や造形美術の世界では、不完全で不安定なアシンメトリーの表現法が好まれる傾向があります。
また、人間が見ている世界も、完全ではなく、不安定に移ろいゆくものが少なくありません。アシンメトリーのアートには、「均衡から欠落したもの」や「やがてすべてが流転する儚さ」を美しさとして捉え、表現する意図があるようです。
主な使い方
- ドガやマネが用いたアシンメトリーの構図には、日本の浮世絵からヒントを得たものがあるらしい。
- シンメトリーのかちっとした絵よりも、アシンメトリーの柔らかい絵のほうが、人間味があって私は好きです。
「アシンメトリー」と名が付く作品
堀江由衣「アシンメトリー」
堀江由衣さんの楽曲「アシンメトリー」は、2015年11月に発売されました。アニメ作品「K RETURN OF KINGS」のオープニングテーマに起用され、作品の雰囲気にマッチした情熱的な曲調で注目を集めました。
作品のストーリーを反映した不安定でアンバランスな世界像や、非対称な性格を持つキャラクターの葛藤などから、アシンメトリーというテーマが形作られたようです。
スガシカオ「アシンメトリー」
スガシカオさんの楽曲「アシンメトリー」は、2002年5月に発売されました。ドラマ作品「整形美人。」の主題歌として多くの人に知られ、オリコンでも週間5位と大ヒットしました。
「君」と「ぼく」について歌った曲であり、「半分に割った赤いリンゴの イビツなほうをぼくがもらうよ」という詩から、心の非対称性をアシンメトリーと呼んでいることがわかります。
映画「<a>symmetry アシンメトリー」
映画「<a>symmetry アシンメトリー」は、2008年公開の日本の青春映画です。親友に想いを寄せる青年の、心の動きやその危うさを描くストーリーであり、同性愛やLGBTにも触れる内容となっています。
<a>の字だけが抜き出されたタイトルのアシンメトリーは、均衡と不均衡を往復する登場人物の心の動きを象徴しているようです。