「両成敗」とは
喧嘩(けんか)両成敗という言葉があります。その「両成敗」の部分だけを独立させても意味的に十分成立するので、現在では喧嘩がつかない「両成敗」が一般化しています。多くの国語辞典では「両成敗」が見出し語として掲載されています。
ゲスの極み乙女。
ロックバンド・ゲスの極み乙女。が2016年に発表したアルバムのタイトルが「両成敗」です。ゲスの極み乙女。といえば、メンバーの川谷絵音(かわたに・えのん)さんが、自身の不倫騒動のため、ネット上で相当なバッシングを受けたことでも知られます。その騒動の最中に発売されたアルバムが「両成敗」だったので、その意味ありげな、含みのあるタイトルに世間は騒然となりました。
ちなみに、アルバムには「両成敗でいいじゃない」「続けざまの両成敗」というタイトルの曲が収められています。自虐ネタかと思わせる歌詞の内容は、各方面で賛否両論を巻き起こしました。
「両成敗」の意味
「両成敗」とは「喧嘩をした場合、その当事者双方ともに悪いとして、処罰をする」という意味です。つまり、結果的に喧嘩という事態に至ったのだから、双方ともに非があるということでいいじゃないか、という考えになります。
ただ、現実問題として、喧嘩に至る経緯には両方でなく一方に非があるケースもあるでしょうし、「両成敗」は公平なようでいて、実は不公平なのかもしれません。
「両成敗」の語源と変遷
「成敗」に双方ともの意味の「両」をつけたのが「両成敗」です。「成敗」には時代時代によって意味が加えられてきた経緯があります。「こらしめる・罰を与える」という意味が加わったのは、中世以降のことのようです。
古代中国の「成敗」
もともとは中国の言葉です。中国・前漢の時代の書物では、字の通り「事が成ることと敗れること」つまり成功と失敗を意味していました。また、失敗だけを言うこともありました。
鎌倉時代では「御成敗式目」(ごせいばいしきもく)
日本では鎌倉時代、幕府によって「御成敗式目」という法律が制定されました。この場合の「成敗」が何を意味したかというと、「裁断(=是非を判断して決める)」することです。
具体的に何の「裁断」かといえば、主に武士(御家人)の土地所有に関することでした。武士たちの土地の所有権を法律で保証(知行権を保護)することによって、政権を安定させようとする狙いがありました。その後、これが転じて「成敗」は「政治を行うこと」の意味も兼ねるようになりました。
信長・秀吉が最初の「両成敗」?
江戸時代に如儡子(にょらいし)が書いた随筆「可笑記(かしょうき)」には
という内容の記述があり、戦国時代から慣習法として「両成敗」が行われていたことをうかがわせます。これが「両成敗」の起源かどうかは断定できませんが、この段階ではすでに「成敗」=「処罰すること・打ち首にすること」の意味になっているのがわかるかと思います。
TV時代劇の暴れん坊将軍では、マツケンこと松平健さん扮する将軍・吉宗公が「成敗!」と言い放つと、悪者が御庭番によってバッサリ斬られるというお決まりのシーンがありますが、時代的にみて「成敗」の使い方は間違っていないといえます。
「両成敗」の使い方
「言い分はどっちもどっちだし、喧嘩両成敗だな」
「当方に落ち度はなかったはずで、両成敗と言われても素直に納得はできない」
「いずれもが痛い目に遭っているという点においては、まさしく両成敗といってよいでしょう」
「両成敗とはいえ、AさんとBさんが全く同じ処分というのは、いかがなものだろう」
「両成敗」の誤った使い方
ここまで解説してきた通り、現在では「成敗」には「処罰する」という意味があります。ですからもし、喧嘩した双方とも何一つお咎めがなかったというケースに「両成敗」は使うべきではありません。例えば「ともに処分なしだったのだから、両成敗ということでしょう」のような言い方をすると、「両成敗」の間違った使い方となります。