「渡す」とは
「渡す」には「こちらからむこうへ」という基本の意味があります。そこからさらに見ていくと、その意味は「移動」「建造」「授受」に大別できます。以下ではそれぞれの意味と使い方を見てみましょう。
「渡す」の意味・使い方・類語①移動
「渡す」には「(物や人を)こちら側から向う側へ移動させる」という意味があり、移動距離によって、次のような類語で言い換えることができます。
距離の離れたところへ移動させる場合:「届ける」「送る」
距離の離れたところへ移動させるという意味で用いられる「渡す」は、「届ける」「送る」などで言い換えることができます。
【使い方】
- 100年前はここには橋がなく、舟で人を渡したものだ。
- 紆余曲折あったが、なんとか被災者に救援物資を渡すことができた。
最初の例文のように、川などで向こう岸まで人や物を運ぶ舟は「渡し舟」と呼ばれ、渡し舟の船頭のことは「渡し守(わたしもり)」と呼びます。
手から手へ移動させる場合:「手渡す」
手から手へと移動させるという意味で用いられる「渡す」は、相手に会って直接渡すというニュアンスの「手渡す」のような言葉で言い換えることができます。
【使い方】
- 400メートルリレーでは、いかにうまく次の選手にバトンを渡すかが勝負の分かれ目になる。
- のんちゃんに会ったら、今日の作文の宿題、渡しておいてくれる?
「渡す」の意味・使い方・類語②建造
「渡す」は、「物の上を越えて、一方から他方へと物が達するようにする、またがらせる」という意味もあります。この場合の「渡す」は、次のような類語で言い換えることができます。
「(橋などを)架ける」
こちら側と向こう側との間を、橋や電線などで結ぶという意味の「渡す」は、「架ける」で言い換えることができます。
【使い方】
- 大雨で橋が流されたので、今朝から川に新しい橋を渡す作業が行われていた。
- 船と岸壁の間に板を渡して、子どもたちを乗船させた。
「(綱などを)張る」
こちら側と向こう側との間に、綱や布、ネットなどをまたがらせるという意味の「渡す」は、「張る」で言い換えることができます。
【使い方】
- 祖母の家では、大きな二本の木の間に綱を渡して洗濯物を干していた。
- 文化祭のゲートに横断幕を渡して飾り付けた。
なお、「張る」には「引きのばしてピンとひろがった状態にする」という意味があるため、上でご説明した「橋を渡す」「板を渡す」などを、「張る」で言い換えることはできません。
「渡す」の意味・使い方・類語③授受
「渡す」には、「一方の側に属していた状態から、もう一方の側に属する状態にする」、つまり「他の人に自分の物や権利を与える」という意味もあります。この場合の「渡す」は「譲る」や「与える」などの言葉で言い換えることができます。
【使い方】
- 田舎の家屋敷は人手に渡し、町中のマンションの一室で暮らすことに決めた。
- 野党に政権を渡すわけにはいかない
また、「書類を渡す」は「書類を配布する/配る」、「証明書を渡す」は「証明書を交付する」のように、何を渡すかによって、様々な類語が考えられます。
「渡す」の複合語
「渡す」には、上述のように「渡す」という動詞単独で使われるだけでなく、他の動詞の後ろについて複合動詞として使われる場合があります。
複合動詞の「〜渡す」には次のような言葉があり、「端から端まで〜する」「一面に〜する」という意味を表します。
「張り渡す」
「張り渡す・張渡す」とは、綱などを端から端まで引いて渡すという意味です。「鯉のぼりを飾ったロープが、二つの橋の間に何本も張り渡されていた」のように用いられます。
「見渡す」
「見渡す」には、「見渡す限り一面のひまわりに感動した」のように、遠くまで広く眺めるという意味と、「監督は作業全体をすみずみまで見渡すことが大切だ」のように、広く全体を見るという意味があります。
「眺め渡す」
「眺め渡す」は「見渡す」とほぼ同義で、一帯を眺めるという意味です。「近隣の風景を遠くまで眺め渡すことができる」のように用いられます。
「引導を渡す」とは
「引導を渡す(いんどうをわたす)」は、「最終的な宣告を下して物事を諦めさせる」という意味の慣用句で、次のように用いられます。
【使い方】
- プロになるには身長が足りないと引導を渡した。
- 何度注意しても遅刻を繰り返す新人に、解雇という引導を渡した。
「引導を渡す」は、もとは死者を葬る前に死者が迷うことなく悟りの世界に辿り着けるように、僧が経文や法語を唱えるという意味でした。