「遡求」とは
「遡求」の字義は「遡(さかのぼ)って求める」ことです。また「遡求」は法律用語であり、「遡求」を行うための国民の権利を「遡求権」と言います。
遡求権について
「遡求」に関わる条文は「手形法:第7章引受拒絶又ハ支払拒絶ニ因ル遡求」、「小切手法:第6章支払拒絶ニ因ル遡求」等に記載されています。以下にいくつか抜粋して引用してみましょう。
満期ニ於テ支払ナキトキハ所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対シ其ノ遡求権ヲ行フコトヲ得左ノ場合ニ於テハ満期前ト雖モ亦同ジ
1引受ノ全部又ハ一部ノ拒絶アリタルトキ
2引受ヲ為シタル若ハ為サザル支払人ガ破産手続開始ノ決定ヲ受ケタル場合、其ノ支払停止ノ場合又ハ其ノ財産ニ対スル強制執行ガ効ヲ奏セザル場合
3引受ノ為ノ呈示ヲ禁ジタル手形ノ振出人ガ破産手続開始ノ決定ヲ受ケタル場合
(小切手法第6章)第39条
適法ノ時期ニ呈示シタル小切手ノ支払ナキ場合ニ於テ左ノ何レカニ依リ支払拒絶ヲ証明スルトキハ所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対シ其ノ遡求権ヲ行フコトヲ得
1公正証書(拒絶証書)
2小切手ニ呈示ノ日ヲ表示シテ記載シ且日附ヲ附シタル支払人ノ宣言
3適法ノ時期ニ小切手ヲ呈示シタルモ其ノ支払ナカリシ旨ヲ証明シ且日附ヲ附シタル手形交換所ノ宣言
e-Gov(http://www.e-gov.go.jp)より、数字をアラビア数字に修正して抜粋。
ごく簡単言えば、「遡求」とは「手形(小切手)の支払いがないとき(または満期前においても支払いの可能性が著しく減じたとき)に、手形を所持する人が、その手形を流通させた振出人や裏書人に対して、手形金額(及び、その他の費用)の支払いを求めること」です。
手形と小切手
そうはいっても、「手形」などには縁がないのでよくわからない、という人も多いのではないでしょうか。そこで、以下では「手形」と「小切手」について簡単に説明します。
「手形」とは
「手形」は、一定の金額を一定の期日・場所で支払うことを約束した有価証券です。「約束手形」と「為替(かわせ)手形」の2種類があります。発行のためには金融機関で審査を受けねばなりません。「小切手」との大きな違いは、支払い期日にならないと現金化できないことです。
「小切手」とは
「小切手」も、一定の金額をで支払うことを金融機関に委託する有価証券です。「手形」との違いは、すぐに現金化が可能なことです。現金の直接的なやりとりを避けるために利用されることが一般的です。ただ、発行のためにはやはり金融機関で審査を受けねばなりません。
「振出人」とは
「振出人」とは、手形を発行し支払いを約束する者のことです。映画などで金持ちが、手元の用紙に金額や名前をサラサラとサインするシーンを見たことはないでしょうか。こうしてサイン(署名)を行った人は当然支払いを行わねばなりません。
仮に支払いができない場合、「振出人(裏書人)」は法律違反となり、遡求の対象となります。ですから署名は、手形・小切手の最も重要な確認事項であり、署名がないものは無効となります。
「遡求」に至るまでの例
具体的な例を出してみましょう。
手形の振り出し
Aさんは金融機関で審査を受け、100万円分の約束手形を、支払い期日○月×日として振り出しました。Aさんは、これを支払いのため、Bさんに手渡しました。
手形の譲渡
Bさんは期日まで待てば、金融機関で換金することができますが、自分の支払いのために別の人に譲渡することもできます。そこで、Bさんは手形をCさんへと譲渡したのですが、この時Bさんは手形に「裏書き」を行い、「第1裏書人」として支払いを保証することになります。
その後Cさんも同じように「第2裏書人」となって、最終的には手形はDさんによって所持されることになりました。つまり、「振出人」であるAさんは、結果的に、手形の最終所持者であるDさんに対し100万円を支払わねばならなくなりました。
不渡り手形の発生と遡求
ところが、Aさんは期日の○月×日までに資金を集めることができませんでした。Dさんは手形を換金しようとしましたが、資金不足のため金融機関に断られてしまいました。手形は「不渡り」となってしまったのです。
「不渡手形」をつかまされてしまったDさんですが、泣き寝入りをする必要はありません。Dさんには「遡求権」があるからです。Dさんは、振出人Aさんだけでなく、裏書人であるBさん、Cさんに対しても遡って支払いを請求することができます。これを「遡求(償還請求)」といいます。
注意点
勿論、これはごく単純化された例であり、実際に遡求を行うにはさらに細かい条件があります。また、訴訟沙汰になる可能性も高く、Dさんに100万円がきちんと支払われるかどうかはなんとも言えません。手形や小切手でお困りの際は、迷わず専門家に相談することをお勧めします。
手形・小切手詐欺
さらに言えば、「手形詐欺(小切手詐欺)」は詐欺の中でも代表的なもののひとつです。現実にあった詐欺事件を扱った映画として、レオナルド・ディカプリオ主演の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(原作『世界をだました男』フランク・W・アバグネイルJr.著)などがあります。
手形や小切手などは日常的に見慣れないものなので、扱う際には注意が必要です。署名はあるか、偽造でないか、振出人は本当に信用のある人かなど、念には念を入れて確認することで、不渡手形をつかまされないようにするのが肝心でしょう。