「焦る」の意味
「焦る」はラ行五段活用の動詞で、大きく分けて3つの意味があります。時代が下って現在では使われなくなった用例もありますし、逆に新しい使われ方も出てきています。
1.いらだつ
「焦る」には「いらだつ」という意味もあり、「早くやらなければと考えても、思う通りにいかなかったり、邪魔されたりしていらだつこと」、「上手くやろうとしているのに、できなくて気をもんでいること」、「気が急いて落ち着きがなくなってしまうこと」などの状態を表します。試合や勝ち負けを付ける場で使われることが多いです。
【使用例】
- 試合で勝つチャンスを逃して焦る
- なかなかシュートの機会に恵まれずに焦る
2.慌てる
「慌てる」という意味の場合、「不意に起こったことに動揺して慌てて落ち着かない気持ちになる」、「思いがけない危機に瀕して平常心でいられなくなる」などの意味合いで用います。どちらかと言うと、危険が迫っていたり、思わぬことに対応できずに失敗しそうになったりした場合に使います。
【使用例】
- 忘れ物をして取りに帰り、打ち合わせの時間に遅れてしまうと焦っていた
- 雪で滑って、歩道橋を転げ落ちそうになり焦った
3.暴れる
現代ではあまり「暴れる」という意味で使われる機会がありません。「いらだつ」意味から派生して、「いらだって暴れる」、「思い通りにいかずに手と足をばたばたと激しく動かす」などの意味で用いられていました。人や動物が思う通りにならずにいらだって手足を激しく動かして暴れる様子を表しています。
【使用例】(現代文では見かけないので、古文の例を挙げます)
- かの女房(中略)狂ひ踊り焦りけれ『荏柄天神縁起』
- (訳)例の女房が(中略)狂い踊って暴れていた
- 焦る上馬(あがりうま)に乗りて『梁塵秘抄』
- (訳)足を激しく動かしている上馬(体をはね上げる癖のある馬)に乗って
元々「慌てる」の意味はなかった
下記の国語辞典の編集者のコラムで、「焦る」の新しい意味について取り上げられています。「慌てる」の用例は、「俗語」と注釈を入れて記載されていることが多いです。(辞書によっては、用例を紹介していない場合もあります。)「俗語」は日常的に会話で用いられる語句のことです。
「慌てる」の意味は、本来の「いらだって気が急いている」とはかけ離れたものです。どうしてそのような意味合いで使われるようになったのかは分かりませんが、いつの間にか普及し、話し言葉に使われるようになっていたと思われます。
たとえばみなさんは「転びそうになって焦った」とか、「取引先の部長の名前を呼び間違えそうで焦る」などと言うことはないであろうか。つまり、危険や失敗が間近に迫っているように感じて、冷や汗が出るほどひどく慌てる気持ちで「焦る」を使うかどうかということである。
実はこの「焦る」は従来なかった新しい意味なのである。そのため国語辞典では、この意味を載せていないもの、載せてはいるが俗な言い方としているものと、扱いがまちまちになっている。
「焦る」の類語
「焦る」の類語を「いらだつ」と「慌てる」の意味に分けて紹介します。現代では「暴れる」という意味合いでは使われる機会が少ないため省略します。
1.「いらだつ」の意味での類語
「焦る」で「いらだつ」という意味で使える類語に「じれったい」、「もどかしい」があります。両方とも「物事が上手く進まずにいらいらして落ち着かない気持ちになる」という意味です。
【使用例】
- 高速で渋滞にはまり、のろのろとしていてじれったい
- 顧客に説明しても上手く内容が伝わらないようでもどかしい思いをしている
2.「慌てる」の意味での類語
「焦る」で「慌てる」という意味で使える類語には、「冷や汗をかく」(意味:はらはらして気が気でない様子)、「パニック状態に陥る」(意味:突発的な出来事で頭が混乱する)などがあります。
【使用例】
- 受験の願書を紛失したと勘違いして冷や汗をかいた
- Aさんは、突然外国への転勤を申し渡されたパニック状態に陥った