盛るの基本的な意味
まず、「盛る」と漢字で書いた場合、読み方は二通りあります。「さかる」と「もる」です。
前者は、「炎が燃えさかる」のように勢いが強まることを意味したり、「さかり場」の「さかり」のように、盛り上がること、繁盛することを意味したりします。また、「近所のノラ猫がさかっていてうるさい」のように、動物が発情することを意味する場合もあります。
一方、「もる」と読む場合には、「お皿に料理をもる」「土をもって塀を築く」などのように、物体を積み重ねていくことを意味します。また、「毒を盛る」のように、ものを仕込む意味でも使われます。
若者言葉としての「盛る」
近年は若者を中心として、後者の「盛る」、つまり「もる」が特別な意味を持って使われることが増えてきました。「誇張する」「美化する」という意味で「盛る」を使うのです。
「誇張する」の意味での「盛る」の使用例
- お前、今の話盛ってるだろ。
- 盛った自撮り写真をインスタグラムにアップする。
この「誇張する」という意味での「盛る」が出てくるのは、何らかの話題の話し方に関して「盛る」という場合と、見た目に関して「盛る」という場合の二つが多くあります。
話を「盛る」
話し方を「盛る」という場合は、慣用句やことわざで言い換えるなら「尾ひれをつける」や「針小棒大に話す」などがあてはまります。
笑いをとるため、盛り上げるため、注目を集めるため、セールスのため、自己や誰かをかばうためなど、様々な目的で話を「盛る」ことが考えられます。その誇張が悪意のもとである場合も、そうでない場合もあり得るでしょう。
写真に関する「盛る」
見た目を「盛る」という場合は、たとえば写真のうつりに関係した文脈での用法があります。写真を撮る機械自体の性能や機能、撮影後の画像編集、あるいはメイクや光の当て方など、多種多様な方法によって被写体を実体より美しく見せている場合に、「盛っている」というのです。
近年はSNSの普及もあいまって、それ向けのプロフィール写真や投稿用の写真など、プライベートな目的で撮られた人物写真においても、「盛る」ことが珍しくなくなってきました。
「盛った」写真の積極的な受容
そこに明らかな見栄が見え透いている場合には、「盛っている」という評価に非難や嘲笑の意味が込められてしまいますが、その一方で、最近は「盛る」ということがある種積極的に受容されている向きもあるようです。
SNSに自撮り画像を投稿する際に、「#盛る」といった形でハッシュタグをつけ、盛った写真であることを宣言するものが少なからずあるのです。
敢えて盛っていることをアピールするのには、ユーモアや愛嬌を添えたり、謙遜の気持ちを帯びさせたり、はたまた嫌味さを薄めるためだったり、投稿者それぞれに異なる様々な目的や心理があると考えられます。
「詐欺メイク」
あるいはメイク技術のアピールという意味合いを持つこともあるでしょう。近頃、女性芸人が、自分自身で施すメイクによってまるで別人のようになった姿をシリーズで投稿し、話題を集めるということもありました。
そうした全く人を変えてしまうほど「盛った」メイクは「詐欺メイク」と呼ばれ、この女性芸人以外にも、プロアマ問わず様々な人がSNSやブログ等で発信しています。「詐欺」といっても、良い意味での驚嘆や面白さが追究されているものであり、エンターテインメント的な性格をもった「詐欺」なのです。
このように、「盛る」という行為は、虚栄的な美化として非難や嘲笑の対象になるばかりでなく、愛すべきもの、楽しませてくれるものとして、積極的に受容されてきてもいるのです。