「千変万化」の意味
「千変万化(せんぺんばんか)」とは、「局面や状況などがさまざまに変化して目まぐるしく変わり続けること」を指す故事成語です。
「千」も「万」も「数が非常に多い」という意味なので、「千変万化」は、「変化」が千も万も起こっている様子を表しているのです。
「千変万化」の使い方
「千変万化」は、目まぐるしく変わる様子を外から見ている場合に使用します。
- 使用例1:「巡る季節は千変万化の風景を見せてくれる。」
- 使用例2:「日によって言うことが違うあの営業担当の態度は、まさに千変万化だ。」
「千変万化」の由来
「千変万化」という言葉は、古代中国の道家の思想書で、全8巻から成る『列子(れっし)』という書物の中の「周穆王(しゅうぼくおう)」に記載されています。
もとは戦国時代に列禦寇(れつぎょうこう)が著したものですが、現存の『列子』は前漢末から晋代にかけて成立したと言われています。
『列子』には故事、寓話、神話が多く載っており、唐代には道教教典とされました。「千変万化」が登場するのは周の国の穆王にまつわる次のエピソードです。
『列子・周穆王』
周の国、穆王(ぼくおう)の時代に、ひとりでに動く、まるで人間のような人形を作った偃師(えんし)という名工がいました。
偃師は自分が作った人形を連れて王を訪れたところ、人形の歩き方や仕草は本物の人のようで、偃師が指示すると巧みに歌ったり踊りを舞ったりと、千変万化の動作を見せ、王を大いに感心させました。
ところが、人形は、舞の最中に王を無視して脇の侍女にウインクをしたので、王は怒り、偃師を誅殺せよと命じます。
慌てた偃師が人形をバラバラにしてみせると、それはニカワや漆、革と木で作られて染料で色付けされたものでした。中には肝臓や心臓などが、その外側には筋肉や骨、皮膚や歯までが精巧に作られており、それらを繋ぎ合わせると、再び人形が動き出したのです。
王は改めて感心し、「人間の技も造化の巧に匹敵するほどまでになれるものなのか」と言い、偃師を周の国へと連れて帰りました。
「千変万化」の類義語
「変幻自在」
「変幻自在(へんげんじざい)」とは、「現れたり消えたり、変化したりが自由自在なことやその様子」、または、「変わり身が早いこと」を表す言葉です。
- 使用例:「その俳優は変幻自在に様々な役を演じてみせた。」
「千変万化」が指す変化は意図するか否かに依らないのに対し、「変幻自在」は思いのままに変化することを指すという違いはありますが、「素早く変化する様子」を表す点は同じです。
「千変万化」の対義語
「永遠不変」、「恒久不変」
「永遠不変(えいえんふへん)」、「恒久不変(こうきゅうふへん)」は、「いつまでも変わらないこと」を指す言葉です。
- 使用例1:「彼女に永遠不変の愛を誓う。」
- 使用例2:「この宇宙に恒久不変なものはないのだろうか。」
「千篇一律」
「千篇一律(せんぺんいちりつ)」とは、「多くの詩文がみな同じ調子で変わり映えしないこと」から転じて、「どれも似たような傾向で面白みや変化に欠けること」を指す言葉です。「千編一律」と表記することもあります。
- 使用例:「入社式でのスピーチはどれも千篇一律だ。」
「万古不易」
「万古不易(ばんこふえき)」とは、「いつまでも変わらないことや、その様子」を表す言葉です。「万古」は「遠い昔から現在まで」という意味です。また、「不易」は、「変わること、変えること」を指す「変易」の反対語で、「変わらないこと」を指しています。
- 使用例:「生あるものが死すのは万古不易の摂理だ。」
文学作品の「千変万化」
『水晶栓』
モーリス・ルブラン著、アルセーヌ・ルパンシリーズの『水晶栓(原題:Le bouchon de cristal)』(新青年編輯局・訳)は、ルパンが「水晶栓」を巡って、水晶栓を持つ悪徳代議士ドーブレク、謎の美女、警察と四つ巴の戦いを繰り広げる話です。
引用したのは、ドーブレクとの決戦に挑むルパンが自動車の中で変装し、ベルタ医学博士と名乗ってドーブレクを訪れるという場面です。
怪盗アルセーヌ・ルパンといえば変装の名人。いろいろな人物になりすます様子が「千変万化」と表現されています。
彼の自動車の内部は事務室であり、書斎であり、また変装室であるように出来ていて、あらゆる参考図書は固もとより、ペン、インキ用箋の文房具、化粧箱、各種の衣服を始めとして、仮髪かつら、附鬘つけかつらの類から、種々いろいろの装身具小道具まで巧みに隠してあった、彼は自動車の疾走中にいかなる千変万化の変装でも為し得るのであった。
『人間失格』
太宰治・著『人間失格』は、自分の本心を隠して道化を演じ、親のいいなりに生きている美男子・大庭葉蔵が主人公で、最初の「はしがき」と最後の「あとがき」以外は、葉蔵の手記というかたちで綴られています。
引用したのは、進学した葉蔵が、悪友・堀木によって酒とタバコと女と左翼思想に浸る様子を記した「第二の手記」の一場面。
自分が、道化の仮面によってひた隠しにしている醜悪さを「傷」に例え、傷に苛まれる苦痛を「千変万化の地獄」と書いています。
その傷は、自分の赤ん坊の時から、自然に片方の脛にあらわれて、長ずるに及んで治癒するどころか、いよいよ深くなるばかりで、骨にまで達し、夜々の痛苦は千変万化の地獄とは言いながら、しかし、(これは、たいへん奇妙な言い方ですけど)その傷は、次第に自分の血肉よりも親しくなり、その傷の痛みは、すなわち傷の生きている感情、または愛情の囁ささやきのようにさえ思われる、
「千変万化」のまとめ
技術の進歩や刻々と変わる世界情勢など、目まぐるしく変わっていくものは身の回りにあふれています。
この『コトバの意味辞典』でご紹介している言葉も、もとの意味から変化したり、誤用が定着したりする言葉もあれば、SNSなどを通じて新しく意味が加わる言葉もあって、まさに千変万化と言えるでしょう。