「芸は身を助ける」とは
「芸は身を助ける」の意味
「芸は身を助ける」とは、「趣味として身につけた技芸が、困ったときに生計を立てる手段となる」という意味のことわざです。「芸が身を助く」や「芸が身を助ける」ともいいます。また、類義語は「芸は身につく」になります。
さらに、皮肉を込めた言い方で「芸は身を助けるほどの不仕合わせ」があります。「豊かな暮らしをしていた頃に身につけた趣味が、生計を立てるためのものになるなんて落ちぶれたものだ」ということです。
「芸は身を助ける」の由来
『西鶴置土産』 井原西鶴
上記の作品の文章が、「芸は身を助ける」の由来です。井原西鶴(いはらさいかく)は、江戸時代、俳句や浮世草子と呼ばれる文芸の分野で活躍しました。『西鶴置土産』は全5巻の作品で、遊郭に通い、遊びの限りを尽くした男たちが描かれています。
「芸は身を助ける」の例文と使い方
- ただ好きで絵を描いていたのに、今では生活の糧だ。芸は身を助けるとはこのことだ。
- 芸は身を助けると言うし、10年も続けたピアノをやめるなんてもったいない。
このように、「芸は身を助ける」は、仕事にするつもりはなかった趣味が思わぬところで役立つことを表しています。とくに、困窮している状況が「芸」によって一変した際に使われます。
そのため、人に対して使うと「一度落ちぶれたけど良かったね」と、皮肉やあざけりと捉えられてしまうこともあるかもしれません。本人を目の前にしては言わないなど、気遣いが必要な言葉です。
「芸は身を助ける」の対義語
「粋(すい)が身を食う」
「粋人だともてはやされていると、その道にふけって身を滅ぼすことになる」という意味のことわざです。「粋」とは、「遊女や芸者の事情に通じていてあか抜けているさま」を表します。遊びとお酒を関連づけて、「酔が身を食う」と勘違いしやすい言葉です。
「芸は身の仇」
「なまじ習い覚えた芸のために、本業がおろそかになり、かえって身を誤ることがある」という意味のことわざです。趣味に夢中になるあまり、生活が成り立たなくなってしまうという状況で使われます。
「芸は身を滅ぼす」は誤り?
前述した「粋は身を食う」「芸は身の仇」と同じ意味で、「芸は身を滅ぼす」と使われることがあります。しかし、「身を滅ぼすことになる」という解釈として「滅ぼす」が使われているだけであり、正式なことわざではありません。
「芸」を含む言葉
ことわざ
- 芸は道によって賢し:専門家はやはりその専門分野については精通していて、他の人とは違った優れものを持っている、ということです。
- 芸術は長く人生は短し:人間の命は短いが、優れた芸術作品はいつまでも長く残るものであるから、怠らず精進して良い作品を残すべきだ、という教えです。古代ギリシャの医者ヒポクラテスの箴言(しんげん)です。
慣用句
- 芸が細かい:細かいところまで工夫され、心遣いが行き届いていることです。
- 芸が無い:身につけた芸事がないことや、工夫がなくありきたりでつまらないことです。
- 芸の虫:芸道にきわめて熱心な人を表します。本に夢中な人は、「本の虫」といいますね。
「芸」とは
「芸」とは、「修練して身につけた技能」のことです。「芸術・学芸・技芸・手芸・武芸」など、さまざまなものがあります。また、「芸術や芸事に関すること」という意味もあります。例えば、「芸人・芸能・演芸」などです。
ほかに、「草木を植える」という意味や、「安芸(あき)の国:旧国名のひとつで、現在の広島県西部」の略としても使われます。そして、「動物などに教え込んだ芸当」という意味もあります。
もともと、「芸」は「藝」と表しました。草を植え、耕すという意味があります。芸を身につけるには、作物を育てるように、こつこつと地道に努力する必要があるのかもしれませんね。