「猛々しい」とは
「猛々しい」は「たけだけし」の口語で
- 気性や行動などがいかにも勇ましく、強そうである。
- 悪事に対する反省心がなく、図々しい・厚かましい。
古典文学の「太平記」の『佐々木信胤成宮方事』には
(この人はもともと田舎の人なので、嫉妬などはしたないと気丈にして)
現在の類語大辞典では、「猛々しい」は「荒い」の関連語に分類されており、1の意味をもう少し拡大して「攻撃的で恐ろしさを感じさせる様子」とあります。一方、2の意味が生じたのは、「太平記」よりも時代が下って、江戸時代のことであろうと言われています。
「猛戻(もうれい)」からの推測
ちなみに、「猛」という漢字を使った「猛戻」という言葉には「猛々しく、道理にもとる」という意味があります。「猛々しい」の意味が「勇ましく強そう」から「荒っぽく、道理にもとる」→「図々しい」と変化していくのは、もしかすると第一印象ほど不自然なことではないのかもしれません。
「猛々しい」の由来
古語には「猛し(たけし)」という形容詞があります。その語幹である「たけ」の部分を繰り返して「たけだけし(しい)」という言葉になったようです。このような言葉を、畳語(じょうご)形容詞と言います。
元の「猛し」には「勢いが盛んである」などの意味がありますが、この場合は「強い・勇ましい」という意味で、「猛々しい」は「猛し」をより強めた表現になっています。
「猛し・猛々しい」の関係は「痛し・痛々しい」「寒い・寒々しい」などと同じです。元の言葉よりも、心の動きが加えられている点が特徴的です。
畳語形容詞とは
畳語形容詞について少し説明します。畳語形容詞とは、同一の単語や単語の一部を重ねて「〇〇しい」と形容詞化した複合語のことを言います。ベースとなる言葉には、形容詞のほかに、名詞(「福・福々しい」など)、動詞(「忌む・忌々しい」など)があります。
盗人は「猛々しい」?
「盗人(ぬすっと・ぬすびと)猛々しい」という言い回しがあります。悪事を働いても図太く平然としている人、あるいは悪事をとがめられた時、逆に居直ったりする人に対して、強く非難するときに使います。
この場合の猛々しいは、勇猛だと褒める意味ではありません。「何という図々しい奴だ!」と罵る意味を込めて使います。また、盗人は泥棒という限定的な意味ではなく、悪事を働く者全般を指しているので、さまざまな悪人・不利益を与える人に対して使用が可能です。
江戸初期の俳諧には
(藪のすぐそばに咲いている花を盗んでいくとは、何とも図々しい輩がいたものだ)
ちなみに、江戸時代には「盗人猛々しい」のように「盗人」に関することわざが多数誕生しました。代表的なものとしては「盗人の昼寝(も当てがある)」「盗人をみて縄をなう」などがあります。江戸時代の盗人とは、イメージが世間一般に広く定着した、分かりやすい存在だったようです。
「猛々しい」の使い方
1勇ましく、強そうの意味では…
- 彼のあまりの猛々しい風貌を見ると、初対面の人は思わず引いてしまう。
- 若者たちの猛々しいパフォーマンスによって、チームは窮地を脱することができた。
2図々しいの意味では…
- 自分の判断のまずさを棚に上げ、同僚を批判するなど、盗人猛々しいとはこのことだ。
- 他人の手柄を自分のアピールに使うなんて、盗人猛々しい奴だ。
「猛々しい」を英語で表現すると…
「勇ましく強そう」という方の意味では、braveが代表的です。勇敢な、雄々しいといった、ヒロイズムを感じさせる意味の「猛々しい」です。ほかにも少しずつ違ったニュアンスの「猛々しい」があって、courageous、valiant、fearless、gallantなどの表現も使われます。
また、「厚かましい・図々しい」といった意味では、boldness、impudent、shamelessなどがあります。