「艱難」の字義
まずは「艱難(かんなん)」という字の意味から見ていきます。
「艱」
「艱(かん)」はまず「乾き干からびて身動きが取れないこと」「食物が足りないこと」、転じて「困難でつらいこと」を意味する漢字です。また端的に「やりにくさ」「つらさ」「難儀さ」も意味しています。
「艱」は訓読して「なや(む)」とも読み、「なやみ」や「苦しみ」のことでもあります。「艱」を用いた熟語には「艱難」の他にも以下のようなものがあります。
- 艱禍(かんか):なやみと災い
- 艱急(かんきゅう):なやみ行き詰ること
- 憂艱(ゆうかん):うれいとなやみ
- 丁艱(ていかん):父母の喪にあうこと
「難」
「難(なん)」は文字通り「むずかしいこと」を意味します。また、「かた(い)」と訓読してこちらもむずかしく「やりづらいこと」や「しにくいこと」を表しています。
そのほか、「つらい目」「災い」「うれい」といった「艱」とほとんど同じ意味もあります。
「艱難」の意味
では「艱難(かんなん)」となると、意味合いはどうなるのでしょうか。答えは「困難にあって悩み苦しむこと」「難儀でつらい目にあうこと」です。
「艱」、「難」それぞれの漢字のままでも意味内容は同じですが、例えば「火炎」や「悲惨」のように、同系統の言葉を二つ重ねることで、「つらさ」「苦しさ」といった意味を強調した言葉となります。
「艱難」の類語
「艱難」の類語には以下のようなものがあります。
「困難」という意味では「受難」や「試練」、また「難儀」や「難局」などがあります。「つらい目」の意味では「苦労(労苦)」や「辛苦」、「辛酸」、「憂き目」などが挙げられます。
「艱難」の関連語と使い方
関連語
「艱難」の関連語には以下のようなものがあります。
- 艱難辛苦(かんなんしんく):人生でぶつかる困難や苦労。「艱難」に類語である「辛苦」を足すことで、意味をさらに強調したものになります。
- 艱難汝を玉にす(かんなんなんじをたまにす):人間は困難を乗り越えることで、人格が磨かれるということ。
使い方
使われ方としては「艱難」単体よりも「艱難辛苦」という四字熟語で用いられることが多いようです。
- どういう艱難辛苦をしても、独学を廃さなかった(芥川龍之介『侏儒の言葉』)
- ともに艱難辛苦を分かち合った仲間たち
- いかなる艱難や辛苦が待ち受けていようと、二人ならば立ち向かえる
『ドラえもん』のエピソード「くろうみそ」
上で紹介した「艱難汝を玉にす」ということわざなどは、普段はあまり目にする機会もない言葉だと思われます。しかしながら、実は大人気の漫画作品の中にもとりあげられています。
それが藤子・F・不二雄の『ドラえもん』のエピソード「くろうみそ」です(コミックス8巻、『藤子・F・不二雄大全集』3巻所収)。
お説教しようとするパパに向かって「お説教なんておもしろいもんじゃないからね。このマンガの人気がおちる」と言って悪びれないのび太に対する、パパのメタ的な返答「いいや2ページほどやる!!」が原作ファンの中では有名な回です。
ここでパパは、のび太に向かって次のような高説をたれます。
- 「かん難汝を玉にす」という言葉を知っているか。
- 「我に七難八苦を与えたまえ」と、月に祈った人を知っているか。山中鹿之助という侍だ。
- 「憂きことの なおこの上に つもれかし 限りある身の 力ためさん」という歌をしっているか。
昔の人は苦労をものともしなかった、ということを言わんとしているのですが、小学6年生向け(連載当時)に書かれた漫画とは思えませんね。
そのお説教がどんな結果(オチ)を生んだのかについては、ぜひ原作を読んでご確認ください。