「にべもない」の意味
「にべもない」という語句は、「にべ」という名詞と「~もない」という打ち消しの言葉で構成されています。そもそもは「〝にべ〟さえもないほどに」といった比喩の文章から成り立っている表現です。現在では「にべもない」で慣用的な一語として用いられます。
「にべもない」は、「愛想がない」や「そっけない」といった意味を示します。他人に対して、冷たく事務的で、つれない態度をとることや、そうした状態を指す言い方です。
「にべもない」の語源
「にべもない」という言葉は、前項でご説明したように「〝にべ〟さえもないほどに」という文章から由来しています。名詞の「にべ」は、漢字では「鮸」や「鮸膠」と表記します。これは一義的にはスズキ目ニベ科に属する海水魚「ニベ」のことで、別名「イシモチ」、「グチ」などとも呼ばれます。
「にべもない」の「にべ」は、この魚そのものではなく、ニベの浮き袋を原料にしてつくられた粘着性のある膠(にかわ)のことです。昔は接着剤として使われたもので、「にべにかわ」とも言われます。このため「にべ」という言葉は、かつては「粘りけが強いこと」の比喩として用いられました。他人との親密な人間関係について表す際にも使われました。
その反対に、親密さがなく、淡泊でひどく無愛想な態度やそうした人物のことを「にべない」や「にべもない」と言うようになったのが、この言葉の由来とされます。強調するときには「にべもしゃしゃりもない」といった言い方もされたようです。
「にべもない」の使い方と例文
「にべもない」の使い方
「にべもない」という言葉は、現代では「~は、にべもない」や「にべもない言い方」といったように形容詞的に用いるほか、連用形の「にべもなく」という形で副詞的に使うことが一般的です。
会話などのやり取りの中で、他人に対して素っ気ない言い方をしたり、まったく愛想がなく、冷たくあしらうような態度をとることについて、「彼の言い方はにべもない」「にべもなく断った」などと用います。
このように「にべもない」は他者の態度や様子について表す言い方であり、しかも「きっぱりと相手を拒絶する態度」といった強い調子を持ちます。なお、使用する際には「彼女はにべもない人柄だ」などと、その人の性格や特質を示す言葉ではないことには注意が必要です。
「にべもない」の例文
- 勢い込んで説明しようとしたら、にべもなく遮られた。
- なぜか彼は、A氏に対しては終始、にべもない態度だった。
- 「君には関係ないことだ」とにべもなく言われた。
- そんなにべもない言い方はしないほうがよい。
「にべもない」と似た言葉
- 取り付く島(しま)もない…頼りとしてすがる所すらない。相手がつっけんどんで、話をするきっかけさえつかめない。
- 元(もと)も子もない…(元は元手、子は利益のこと)利益どころか元手まで失い、なにもかもなくす。
- すげない…愛想がない。思いやりがない。
- 身も蓋(ふた)もない…言葉がストレート過ぎて、含蓄や潤いがなく、思いやりも感じない。
- けんもほろろ…他人の相談事や依頼を無愛想に拒絶するさま。
「にべもない」の英語表現
- You are altogether too outspoken. (随分あけすけに言う人だね、君は)
- We won't get anywhere if you talk like that. (それを言ったらおしまいだ)
- That's too direct. (ズバズバ言い過ぎだよ)
「にべもない」のまとめ
「にべもない」は、普段何気なく使ったり聞いたりする言葉の一つですが、語源をたどると「魚の一種」や「魚を原料にしてつくる接着剤」にまつわる語句だったとは、意外な発見だったのではないでしょうか。
「取り付く島」もそうですが、海産物や島などに由来する言葉が多いのも、海に囲まれた日本ならではなのかもしれません。