「口惜しい」の意味
「口惜しい」(くちおしい)には、以下のように複数の意味があります。
- 残念である。無念である。がっかりである。意に染まない。
- 見るかげもない状態である。なんの取柄もない。言うに足りない。つまらない。
- 自分のみじめさを思い知らされて情けない、耐えがたい。
現代語で使用されている「口惜しい」は1もしくは3の意味であり、物事が思うようにいかず、腹立たしさとともに泣きたくなるような気持ちのことを言います。
そうした「口惜しい」気持ちは「悔しい」という言葉の意味と非常に近く、辞書によっては両者を同義語と見なす場合もあるほどです。したがって、少なくとも現代語の範疇では、「口惜しい」と「悔しい」は同じ意味の言葉であると考えてよいでしょう。
「口惜しい」の使い方
「口惜しい」という言葉は、最初に説明したように「悔しい」と同じ意味で使用できます。しかし敢えて違いを挙げるとするならば、「口惜しい」は「悔しい」よりも文語的(文章語的)で、やや古風で大仰な響きがあります。
例えば、「絶対に成功するだろう」と思っていた物事が失敗してしまった時や、自尊心を傷つけられて屈辱感にまみれた場合など、怒りや悲しみさえ伴うほどの「無念でたまらない」という気持ちを表すために「口惜しい」を使うと良いでしょう。
例文
- 人々を苦しめた悪党が、今も我が物顔で街中を練り歩いているのが口惜しい。
- ほんのちょっとした手違いで論文の提出が遅れ、ライバルに出し抜かれたときは、本当に口惜しい思いをした。
- じきに生まれる我が子の顔を拝むことなく、病でこの世を去らねばならないのは口惜しい限りである。
- 経済的な事情から長年の研究を打ち切らざるをえなくなった彼は、涙を流して口惜しがった。
「口惜しい」の語源
「朽ち惜し」
「口惜しい」という言葉は、「朽ち惜し」(くちおし)、すなわち価値あるものがすたれたり、ダメになったりする(=朽ちる)ことを残念がる(=惜しむ)気持ちを表す言葉が語源であると考えられています。
有形無形問わず、大切なものが何らかの原因で失われ、なくなってしまうことを人は惜しみます。この「残念でたまらない」という気持ちが「悔しい」に通じて、室町時代ころから混同が見られるようになったと考えられています。
室町時代の終わりから現代までは450年ほども経過していますから、「口惜しい」と「悔しい」はもはや「混同」というより、「同じ意味を持つようになった」と言ってもよいでしょう。
「口が惜しい」
「口惜しい」は、文字通り「口」が「惜しい」、すなわち「言葉にするのも惜しい」≒「言葉にできないくらい悔しい」という心理状態から来た言葉であるという説もあります。
あまりに悔しいと「悔しい」と言うことすら屈辱的ではばかられる、と考えれば、それなりに説得力がある説ですね。
「殊に惜し」
「口惜しい」は「殊に惜し」(ことにおし)、つまり「普通とは違って、なお、とりわけて惜しい」という言葉に由来するという説もあります。
「惜しい」をさらに強めた言葉と考えれば、意味は通じますね。「くちおし」と「ことにおし」、音も似ています。
「口惜しい」の類語
「口惜しい」という言葉の中には、「失われるものが残念だ」というニュアンスと、「腹立たしく涙が出るような悔しさ」のニュアンスが共存しています。
そのふたつのニュアンスを満たす類語としては、「悔しい」の他には「無念」「恨めしい」「痛恨の思い」などがふさわしいでしょう。
多少、悔しさのニュアンスが落ちても構わないのであれば、「残念」「もったいない」「やるかたない」「心外」「遺憾」「心残り」などの言葉も類語として使えるでしょう。