「舌を巻く」とは
「舌を巻く」は、「(ずば抜けて優れている物事に対して)とてもびっくりすること。感心すること」を表す慣用句です。
次に、「舌を巻く」を構成している「舌」と「巻く」について、それぞれの意味を見ていきましょう。
「舌」の意味
「舌」とは、平たく言えば「べろ」のことです。食事の際に口の中の食物の撹拌(かくはん)や嚥下(えんげ)を補助したり、味覚や発音を司っている、口内から突出している筋肉質の器官を指します。
「舌」には「言葉遣い。話をすること」などの意味もありますが、「舌を巻く」においては前者の「べろ」という意味です。
「巻く」の意味
「巻く」は、「(ネジなどを)ねじり回す」や「周囲を取り囲む。包み込む」など多くの意味を持つ言葉です。「巻く」は「言葉にならないほどにびっくりしたり感心する」ことも指しますが、これは「舌を巻く」の形で用いられます。
「舌を巻く」の語源
「舌を巻く」の語源となったのは、中国の『揚雄伝』という書物に書かれている「舌巻」という言葉だと言われています。「舌巻」とは、舌を丸めて口の奥に入れている状態のことです。
舌を巻くとものが言えないことから、やがて、「舌巻」は「驚きや感動で言葉が出ない」という意味で用いられるようになりました。
「舌を巻く」の使い方
- 監督は彼の投げたボールのスピードに舌を巻いた。
- 彼女の実直な勤務態度には舌を巻くと同時に敬意を表する。
- 大一番を迎えても動じない彼の心臓の強さには舌を巻いた。
「舌を巻く」の類語
「感服」
「感服」とは、「深く感じて尊敬の念を抱いたり、敬服すること」という意味です。「感心する」という点においては「舌を巻く」と共通していますが、「舌を巻く」には尊敬などの含みはありません。
[例文]
- 彼はまだ若いが、見事な料理の腕前には感服した。
- その少女の頭の回転の速さは、皆を感服させるに足るものだった。
「脱帽」
「脱帽」は文字通り「帽子を脱ぐこと」ですが、挨拶など礼儀として動作でもあります。そのため、「(帽子を脱いで)敬意を示すこと。服従や降伏の意を示すこと」という意味も持つようになりました。
「脱帽」には「びっくりする・感心する」という意味ではありませんが、「敬意を示す・降伏する」という前提として驚きや感心があると考えれば、「舌を巻く」に近い言葉と言えるでしょう。
[例文]
- 彼は脱帽して礼をした。
- 彼が出すアイディアにはいつも脱帽するばかりだ。
- 対戦チームのピッチャーの好投には脱帽した。
「言葉を吞む」
「言葉を吞む」とは、「感動や驚きによって、または、相手の気持ちを察して言おうとしたことを言えなくなる」という意味です。「舌を巻く」には、相手の気持ちを察して言葉が出ないという意味はありませんが、感動や驚きで言葉が出ないという意味においては共通しています。
[例文]
- 山頂からの美しい景色に思わず言葉を呑んだ。
- 彼女のあまりの嘆きように、掛けようとした言葉を呑んだ。
「舌」を用いた慣用表現
「舌を巻く」以外にも、「舌」を含む慣用表現はいくつもあります。
「舌が回る」
「舌が回る」とは、「口達者である。すらすらと喋る」という意味です。
[例文]
- 客の剣幕に気圧されて、彼女は舌が回らなくなった。
- 普段は寡黙な父は、お酒が入ると舌が良く回る。
「舌の根の乾かぬ内」
「舌の根の乾かぬ内」とは、「何かを言い終えてすぐに」という意味です。前に言ったことに反する言動をしたことを批判する際に使われます。
[例文]
- 宿題をやると言った息子達は、舌の根の乾かぬ内に遊びに行ってしまった。
- A議員は、当選すると舌の根の乾かぬ内に公約を撤回した。
「舌を出す」
「舌を出す」は、「他人を馬鹿にしたり嘲る(あざける)ジェスチャー」ですね。そのほかにも、「心の中で嘲笑う」や「自分の失敗をごまかしたり恥じる仕草」を表すこともあります。
[例文]
- 小言を言い終えた教師が立ち去ると、彼女は舌を出した。
- 彼は人が良さそうに見えるが、笑顔の裏で舌を出すような性格だ。
- 後ろから脅かそうとしたところを見つかった彼女は、小さくペロッ舌を出した。
「舌を鳴らす」
「舌を鳴らす」とは、「(とくに美味しい物を食べて)感嘆するさま」または、「軽蔑や不満を表す様子」のことです。同じ仕草であっても、良い意味と悪い意味と両方を持っています。また、「舌を鳴らす」は「舌鼓を打つ」と言い換えることもできます。
[例文]
- 地元産の新鮮な魚介を使った寿司に舌を鳴らした。
- 彼は上司からの理不尽な叱責に不満そうに舌を鳴らした。