「鋭気を養う」とは
「えいきをやしなう」には「鋭気を養う」と「英気を養う」の二つの表記が存在します。まずは、「鋭気」と「英気」について説明しましょう。
「鋭気」と「英気」
「鋭気」<えいき>とは、①気性が鋭いことや②激しく意気込んでいることを表しています。一方、「英気」は、①とても優れた才能や才気、または、②積極的に活動しようとする気力や元気という意味です。
こうしてみると、「鋭気」の②と「英気」の②はやや似ていますね。これらのニュアンスの違いについて、「鋭気」は、「目標に対して意気込んでいる・気性を鋭くしている」。「英気」は、「物事に立ち向かっていこうという気力・元気」と説明している辞書もあります。
一般的には「英気を養う」
辞書に掲載されている「えいきをやしなう」の漢字表記は「英気を養う」で、「何かに備えて気力を充実させる・元気をつけておく」という意味です。「次の週末は温泉につかって英気を養う予定だ」のように使います。
「英気」のニュアンスを考えると、「英気を養う」には、今までの疲れを取る・気分転換するという含みがあることが分かるでしょう。
「鋭気を養う」は誤用か?
では、「鋭気を養う」は誤用でしょうか?しかし、小説などで「鋭気を養う」という表現が用いられていることもあります。よって、誤用というよりは、慣用的にそういった用法もあると解釈するのが妥当でしょう。
ただし、「鋭気を養う」と書くことで、相手に誤用ではないかと思われてしまう可能性があることは覚えておいた方が良さそうです。
「鋭気を養う」の意味
「鋭気を養う」も、使い方は「英気を養う」とほぼ同じです。つまり、慣用的には、「次の週末は温泉につかって鋭気を養う予定だ」と書く場合もあるということですね。
ただし、筆者が敢えて「鋭気」と書くのは、これから挑む目標に対してモチベーションを高める・意気込みを新たにするという含みをもたせるためでしょう。
これを踏まえると、「鋭気を養う」は「(目標に向けて)力を蓄える・気力を高める・爪を研ぐ」ことを指していると言えます。
「鋭気を養う」の使い方
- このところ仕事が立て込んでいたので、久しぶりに有休を取って鋭気を養った。
- この休暇の間に旅行にでも行って鋭気を養おう。
- 次のコンペで勝つために鋭気を養っておく必要がある。
『小説 不如帰』
ここで、ひとつ小説を例に挙げます。
「月ばかりだ。点検が済んだら、すべからく寝て鋭気を養うべしだ」
ー徳冨蘆花『小説 不如帰』ー
上の引用の箇所だけ見ると、穏やかな海を進む船上での会話のようですね。しかし、これは日清戦争の軍艦での会話です。「鋭気」と書くことで、休もうと言いつつも、いつ戦闘になるかという緊張感が拭えないことを匂わせているとも解釈できます。
「鋭気」を含む言い回し
「鋭気を挫く」
ここでの「挫く(くじく)」は、勢いなどを弱らせる・抑えることを表しています。「鋭気を挫く」は、気勢を削ぐ、意気消沈させるといった意味です。「鋭気を挫く」は「鋭気」の用例の中で一番多いかもしれません。
【例文】
- 彼は勝てる試合を逃したことで、鋭気を挫かれたようだ。
- 部下たちに無理をさせて、鋭気を挫く結果となってしまった。
「鋭気が漲る」
「漲る」(みなぎる)とは、力や意思などが溢れんばかりであることを指しています。「鋭気が漲る」は慣用的な表現ですが、目標に対してますます勢いづいている・武者震いするほど意気込んでいるといった意味です。
なお、溢れるくらい気力が充実している・元気いっぱいであることを言う際は、「英気が漲る」と表記します。
【例文】
- 大舞台を控えた彼女は言葉少なだったが、瞳の奥には鋭気が漲っていた。
- ここまできたらやるしかない覚悟を決めると、疲れきった体に鋭気が漲るのを感じた。