「飛んで火にいる夏の虫」とは?
「飛んで火にいる夏の虫(とんでひにいるなつのむし)」とは、自分から進んで、あるいは、それが危ないことだと気がつかないで、危険や災難に飛び込んでいくことを例えたことわざです。
燃えている火の明るさにつられて飛んできた夏の虫が、火に飛び込んでしまって焼け死んでしまうところから、このように例えられます。「飛んで火に入る夏の虫」とも書かれますが、この場合の「入る」は、「はいる」ではなく「いる」と読みます。
「飛んで火にいる夏の虫」使い方
- 普通の家庭に育った高校生が、興味本位で夜の盛り場に行くなんて、飛んで火にいる夏の虫もいいところだ。
- もめている女性のグループ同士の仲裁に入るなんて無謀だよ。どちらの味方をしても、感謝されるどころか、どちらにも嫌われるのが目に見えている。飛んで火にいる夏の虫だから、やめておいたほうが良い。
- 傾いた家業を継ぐために、今いる会社を辞めて田舎に戻るなんて、飛んで火にいる夏の虫だ。
「飛んで火にいる夏の虫」由来
7世紀の中国で成立した歴史書『梁書(りょうしょ)』の中の「到漑伝(とうがいでん)」に、「飛んで火にいる夏の虫」の由来があります。
梁(りょう、中国の南北朝時代の王朝)に、到漑という優秀な人物がいて、高祖(こうそ、梁の初代皇帝)からも重く用いられていました。ところが、年齢には勝てず、以前のような名文を書くことはできなくなっていました。
そこで、高祖は到漑に、「お前もすっかり年老いてしまった。年をとると、虫が火に飛び込んでしまうような失敗をすることがある。だからもう引退したほうが良い」という内容の手紙を送りました。この故事から「飛んで火にいる夏の虫」ということわざが使われるようなりました。
「飛んで火にいる夏の虫」類義語
- 蛾の火に赴くがごとし(がのひにおもむくがごとし)
- 我と火にいる夏の虫(われとひにいるなつのむし)
- 手を出して火傷する(てをだしてやけどする)
- 愚人は夏の虫(ぐにんはなつのむし):愚人は自分で自分を危険におとしいれること
「飛んで火にいる夏の虫」英語での表現
「飛んで火にいる夏の虫」を英語で表現すると次のようになります。
- Who perishes in needless danger is the devil’s martyr.(不必要な危険で死ぬ者は、悪魔への信仰で殉教したも同然である)
- It is like a moth flying into the flame.(それはまるで火の中に飛びこんでいく蛾のようだ)
- Fools rush in where angels fear to tread.(愚かな者は、天使が恐れて足を踏み入れないようなところへ飛び込んでいく)
- rushing to one’s doom(飛んで火にいる夏の虫)
「夏の虫」は、なぜ「飛んで火にいる」?
虫の習性(走光性)
虫の中には、「走光性」という習性を持っている種類のものがあります。「走光性」とは、生物が光の刺激に反応して移動することを言い、光の方向に近づいていくことを「正の走光性」、光から離れていくことを「負の走光性」と言います。
「正の走光性」を持つ昆虫のうち、蛾などは、光と一定の角度を保って飛ぶ習性があります。太陽や月は光源が遠くにあるので、光が平行に地球に届きます。その光と一定の角度を保って飛ぶことで、まっすぐに飛ぶことができるのです。
ところが、光源が、燃える火のように近くのものの場合は様子が変わってきます。光源の周りを、一定の角度を保とうとぐるぐる回って飛んでいるうちにだんだん光源に近づき、最終的には火に飛び込むことになってしまい、虫は焼け死んでしまいます。
「夏の虫」とは
「飛んで火にいる夏の虫」の「夏の虫」は、「ヒトリガ」という蛾の仲間であると言われています。漢字では、「火取蛾」「灯取蛾」「燈取蛾」「火盗蛾」「灯盗蛾」のように書きます。この蛾は、走光性がめだって強い種類だったので、「ヒトリガ」という名前になったようです。