「しなだれかかる」とは?
「しなだれかかる」とは、人に媚(こ)びてもたれかかる動作を表す表現です。単純な動作だけではなく、「媚びている、相手に甘えている」という意味が含まれている点が大きな特徴です。
漢字では「撓垂れ掛かる」と書き、「撓垂れる」と「(もたれ)掛かる」が合成された言葉です。
「撓垂れる」とは?
「撓垂れる」(「撓垂る」とも)の意味は、以下の二つです。
- しなって垂れる。
- 媚びたり甘えたりして人に寄り添い、または寄りかかる。
1番目の意味は「花の房が撓垂れる」のように主に植物の様子に用いられます。2番目の意味は「しなだれかかる」とほぼ同一であり、人の動作や様子に使う言葉であることがわかりますね。
「撓」の字について
「撓」(トウ、ドウ、コウ)の字は訓読みでは「たわ-む」「たわめ-る」「た-める」「しな-う」「みだれ-る」などの多様な読みを持ち、「手」と音符「堯」(ギョウ:「たわむ」の意)から、「手で曲げたわめる」が原義です。
日頃なかなか見かける機会はない字ですが、手へんを木へんに変えて「橈」としても同じ意味であり、こちらの字は私たちの身体の中、腕の中にある「橈骨」(とうこつ)という大きな骨の名に使われています。
たわんだように見える外見から「橈骨」。折れ曲がっているというほどではなく、ゆるくやわらかいカーブを描くような様子が「橈」であるとイメージすればよいでしょう。
「しなだれかかる」の使い方
「しなだれかかる」は、基本的には人が人に対して、媚びるように、甘えるように、身体をたわめてもたれかかる(寄りかかる)さまを指して使います。
主観的に「媚びている、甘えている」と判断できるのであれば、人以外の対象にも、「猫が私の膝にしなだれかかってきた」「彼女はソファにしなだれかかっている」と表現することも可能です。
身体のどこか特定の部位(腕など)だけでしなだれかかる、と使うことはなく、基本的にはほぼ全身を相手に預ける、という状態を表します。少なくとも、上半身の体重をまるごと相手にゆだねる程度の全体性は必要です。
好意や親しみの表現
「しなだれかかる」を使う上で特に注意したいのは「媚びる、甘える」という意味合いです。
原則として「しなだれかかる」側は、受け止める側に対し、自分の身体を預けても良いと思えるほどの好意・親しみを持っていることが前提です。そうした関係の例としては、子どもと母親、交際関係にある男女などが挙げられます。
ただし、相手に言うことを聞いてもらいたいがために、わがままや打算的感情で「しなだれかかる」場合もないとはいえません。
また、明確にそうと決まっているわけではありませんが、「媚びる、甘える」という態度は女子供をイメージさせる傾向があります。そのため、「男性が(誰か・何かに)」「大人が子どもに」しなだれかかるという用例はあまり一般的ではありません。
例文
- 電車で隣に座った彼女は、人目もはばからずに私にしなだれかかってきた。
- 甘えて膝にしなだれかかってくる五歳の息子を見ると、ついつい叱る気をなくしてしまう。
- 「どうか行かないで」と花子の太郎の腕にしなだれかかった。
- 彼女はまるでそれが自分の家のベッドであるかのように、机にしなだれかかっていた。
「しなだれかかる」と「もたれかかる」の違い
「しなだれかかる」と似た表現に「もたれかかる」(凭れ掛かる)があります。「何かに支えとしてよりかかる、もたれる」という意味であり、動作だけを見ると「しなだれかかる」と非常によく似ています。
しかし「もたれかかる」には「しなだれかかる」にあるような「媚びる、甘える」の態度や、「しなやかに身体をたわめる」という様子も含まれていません。
例えば、電車内などで見知らぬ他人が眠ったまま自分のほうへ身体を預けてきたら、「しなだれかかってきた」ではなく「もたれかかってきた」と言うほうが適切です。