「訥々」とは?
意味
「訥々」(とつとつ)とは、「口下手なさま、どもるさま、つかえつかえ話すさま」という意味の言葉です。
「訥」とは?
「訥」の字は「言」(ごんべん)に、「内」(ダイ)の音符から成り、この「内」は「難」の意味に通じることから、言葉になやむ、言いなやむ、口下手などの意味を表します。
「訥」と似た意味の漢字に「吶」があり、「訥々」はまったく同じ意味・読みで「吶々」とも表します。
「訥々」の使い方
「訥々」は、主に「訥々と(話す)」などの形で、誰かが何かを話す際、どもる様子、口が重い様子、言葉につかえている様子を指して使います。「話しぶり」を形容する言葉ですが、派生的に文章や文体の性質についても使われることがあります。
基本的には文語的な表現として小説の描写などに用いられる表現であり、日常会話で用いられることはほとんどありません。
特に小説など創作物においては、人物が発する言葉を逐語的にすべて並べ立てる場面を省略・要約する意図で、「彼は〇〇について訥々と話した」といった描写が用いられることがあります。
「訥々と話す」が持つイメージ
「訥々と話す様子」は、自信のなさや悩みの多さ、背景にある事情の複雑さをイメージさせる側面があります。一方で、ゆっくりながらも努力して言葉を選んでいるというイメージもあり、一概にネガティブなニュアンスではありません。
話し方の癖や性格の問題で、普段から「訥々と話す」人もいれば、普段はすらすらと言葉が出てくる人であっても、話しにくい内容を説明する際には「訥々とした語り」になる場合もあるでしょう。
いずれにせよ、「自分から話している」ことは確かですので、「訥々」には拒絶や無視といったニュアンスは含まれません。ただし、「嫌々」や「躊躇」の心情は含まれる可能性があります。
例文
- 彼女は事件当日から今日までのことについて、時折記憶をたどるように沈黙を挟みつつ、訥々と語った。
- 戦争体験の悲惨さを訴え、平和についての考えを述べる祖父の訥々とした語りに、私は知らぬうちに涙を流していた。
- あの作家の訥々とした文体には、不思議とファンが多い。
「訥々」の類語
ぽつりぽつり
「ぽつりぽつり」は、「少しずつ話すさま」を表すオノマトペの一種です。雨の音などにも使われることがある表現ですね。
「ぽつり」だけであれば一言だけ話すイメージですが、それを繰り返すような話しぶりを思い浮かべるとよいでしょう。
【例文】
- 彼はしばらく言葉を選んでいるようだったが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
途切れ途切れ
「途切れ途切れ」(とぎれとぎれ)は、文字通り、何かが途中の各所で途切れるさまや、何度も途切れながらも続くさまを意味する言葉です。
「訥々」に比べると、声などが途切れてしまってなかなか話の要領を得ないというニュアンスが強めですが、言葉を選ぶために途切れ途切れに話すという意味で使うことはできます。
「途切れ途切れ」は「話しぶり」だけではなく、何らかの声・音、感覚、工程、現象などにも使われる言葉ですので、話しぶりについての表現であることを示したい場合には、前後の文脈で補いましょう。
【例文】
- 彼は途切れ途切れにではあったが、あの日あった出来事を話してくれた。
「訥々」を英語で言うと?
「訥々(と話す)」を英語で言いたい場合には、以下のような表現を用いましょう。
- slowly(ゆっくりと)
- falteringly(ためらいながら、口ごもりながら、震える声で)
例文
- He slowly[falteringly] talked about why he left from the scene.(なぜ現場から立ち去ったのかについて、彼は訥々と話した)