「vector」の意味
「vector」とは、「大きさと向きの量」のことを意味する英単語です。「どの方向を向いているか(方向性)」と「その量(エネルギー)」が合わさった概念であり、その汎用的な意味から、さまざまな分野で用いられている言葉です。
数学・物理などの専門分野の他、「何か」が方向性とエネルギーを持っているさまから、一般的な用語として「影響力(をもつもの)」という意味で使用されることもあります。
読み方・表記
「vector」は、英単語に忠実に発音すると「ヴェクター」が近いのですが、日本語においては「ベクトル」とも読まれます。これは、「vector」の元となったドイツ語「Vektor」の読みに由来するものです。
日本語においては、「ベクトル」「ベクター」の二つの読み方・表記がおおむね同程度に使用され、意味の違いもほとんどありませんが、「vector」の発音は「ヴェクター」が近いことを覚えておきましょう。
対義語は「scalar」(スカラー)
「vector」をより深く知るために、対義語の「scalar」(スカラー)もぜひ覚えておきましょう。「scalar」とは、「数、および数に従って段階的・等級的に表れる量」のことです。
少々専門的な説明で難しく感じられるかもしれませんが、簡単なもので例えれば、火を灯した蝋燭から放たれる熱や光が「scalar」です。これらのエネルギー(熱・光)は、決まった方向を持たず、じわじわと、段階的に広がっていきますよね。
対する「vector」は、例えるならば高速走行する新幹線です。新幹線の車体は、エネルギー(速度)を常に一定方向へ働かせながら、ある決まった方向へ進み続けますよね。こうした「力+向きの量」を表すのが「vector」です。
「vector」:数学物理
数学・物理分野の「vector」は、力の大きさや向きを表すのに欠かせない概念です。スカラー量と区別するために矢印(→)込みで書かれる例も多く見かけます。高校数学で扱う単元ですので、覚えているという方もいらっしゃるかもしれません。
「vector」は、例えば「真っすぐに進んでいた帆船が、横から強い風を受けたらどのように進むか」など、「加速度」や「二つ以上の力の合成」などを考えるにあたって役立ちます。経済学における景気動向分析など、他分野での活用も多くみられます。
用例
- vector analysis…ベクトル解析
- vector space…ベクトル空間
「vector」:生物学
生物学における「vector」は、通常は「ベクター」と読み、感染症の病原体(ウイルスなど)を媒介する「媒介者」のことを指します。
感染症は無作為に広がるわけではなく、食物連鎖のサイクルの中で「ある方向性と力(感染力)」を持って広がりますから、その主体となる媒介者を「vector」と呼ぶわけですね。
さらに、遺伝子技術において、遺伝子のクローニング(組み換え)を目的として生物に注入され、細胞核など特定の場所に届けられて何らかの影響をもたらす遺伝物質(RNA片など)のことも「vector」と言います。
用例
- vector of viral plant diseases…ウイルス性植物病の媒介者
- vector for delivering genes into cells…細胞内に遺伝子を届けるベクター
「vector」:コンピュータ
コンピュータ用語の「vector」は、基本的には数学・物理分野の応用として、力や向きの量を座標として考えたデータ構造やデータ処理のことを意味します。
例えば、コンピュータ上で描いた絵を保存する場合を考えます。筆を動かした結果の絵を、小さな点の集合として保存するのをラスタ形式と言うのに対し、筆を動かした力加減や向きの量を保存するのが「ベクタ形式(vector graphics)」です。
用例
- vector scan…ベクトルスキャン(データを読み取る方法の一種)
- vector transpher…ベクトル転送(ベクトルデータを転送すること)
「vector」:その他
最後に、ここまでに紹介しきれなかった、主な「vector」についてまとめます。
- KRISS Vector…KRISS社が開発した軽機関銃。名称は弾丸発射の反動を分散・吸収する独自技術に由来する。
- VECTOR(企業)…コンピュータ技術開発やソフトウェア販売などを行う企業の名。
- VECTOR(アルバム)…いとうかなこさんによる4枚目のベスト・アルバム。遺伝子技術の「vector」に由来し、聞く者に楽曲が深く浸透するという意味。