「事欠かない」とは?
「事欠かない」とは、対象とする事物について、まったく不足していない、必要なものがすべて揃っていてなんの不自由も苦労もない、ということを意味する言い回しです。
多くの場合、「事欠かない」の前に、「○○に」「○○には」というかたちで対象となる事物を置き、「○○に(は)事欠かない」という形で用いられます。
「事欠かない」の品詞構成
「事欠かない」は、動詞「事欠く」の未然形「事欠か」に、打ち消しの助動詞「ない」が付いた言葉です。
「事欠く」という言葉には、「必要なものが不足して不自由する」、「よりによって」という2つの意味があります。後者は、「言うに事欠いて~(よりによって、そんなことを言うのか)」という言い回しでよく目にしますね。
「事欠かない」は、前者の方の意味の「事欠く」を「ない」で否定することにより、必要なものはなんでもある、不自由しない、という意味を表します。
「事欠かない」の使い方
「〇〇に(は)事欠かない」という言い回しの、○○に入れることができる事象は多岐にわたりますが、基本的には、万人にとって必要で価値あるものが入る場合が多いです。「お金にはことかかない」などと豪語してみたいものですね。
逆に、あっても困るような価値のないものを対象とすることは稀です。「新米には事欠かない」とは言えても、「傷んだ果物には事欠かない」では奇妙な文脈となってしまいます。
また、人間を対象とする場合は、時制が現在であれば、複数人の存在に限ります。恋人は普通は1人だけの存在ですから対象とはならず、複数人の男友達や女友達であれば用いることができます。
過去形では、「恋人に事欠かない人生だった」と用いることができます。人生のなかで途切れずにたくさんの恋人とめぐりあった、つまり複数扱いの「恋人」となるからです。
(A男)
一代で起こした輸入雑貨店は大繁盛で、金には事欠かないが、仕事一筋で家庭は持てなかった。幸せって何だろうなあ。
(B子)
美恵子は明るい性格で、男友達には事欠かないそうよ。でも、恋人は面倒くさいから必要ないんですって。
(C男)
彼女には独身生活が似合うね。僕は、これまで恋人には事欠かなかったけれど、最近は結婚を考えているんだ。
(D子)
兄は、コンサルティング企業でキャリアを積んでいるの。起業を考えている私としては、情報に事欠かないのが本当にありがたいわ。
「事欠かない」の類語
「不自由しない」の意味と使い方
「不自由しない」という言い回しの「不自由」は、読んで字のごとく「自由ではない」、すなわち思う通りに物事が立ちいかないことを意味します。
その「不自由」を「しない」と否定しているわけですから、「不自由しない」の意味は、不足して困るということがない、思い通りにならないことがない→すべて十分に足りていて、困ることがなにもない、という意味になります。
- 田中氏は、実に対人コミュニケーションにたけた人物で、人脈に不自由したことがない。
- その大女優は、息子にも両親にもお金で不自由させたことはない、と得意げに話した。
「苦労しない」の意味と使い方
「苦労」とは、辛く困難な想いです。「苦労しない」は、その苦労をせずにすむ、すなわち辛い目にあうことも苦しい思いをすることもない、という意味です。
「事欠かない」「不自由しない」に比べると、対象とするものが限られているのがポイントです。「お金」の関連語、「人脈」など、それらの手段があることで、自分の生活のシステムなどが円滑に楽に進む事柄が中心になります。
「新鮮な野菜には苦労しない」や、「男友達には苦労しない」といった言い回しは不自然ですね。
- 親が資産家だったから、お金には苦労したことがないんだ。
- 昔から、人間関係だけは大切にしてきた。その結果、人脈に苦労したことはなく、困難があっても必ず誰かが手をのべてくれるよ。