「野放図」の読み方・表記ゆれ
「野放図」の読み方は「のほうず」です。現代では「野放図」の表記が用いられることが多いですが、「野方図」や「野放途」という表記もあります。
「野放図」の意味
「野放図」は野に放った図、と書きます。野放し、放し飼いというイメージを抱くかもしれません。基本的にはそのイメージ通りの意味の言葉です。
ずうずうしい
「野放図」の意味は横柄で図々しいことです。傍若無人という四字熟語がありますよね。傍らに人なきがごとし、とまるで人のことなど考えていない尊大な態度を表します。「野放図」も同じように人のことなどお構いなしの傲慢さを表す言葉です。
その一方で、無邪気で裏表がない、豪快で器が大きいというニュアンスを含んだ使い方もあるようです。故意に他人を無視しているというよりは、むしろ他人のことを考えるという意識が抜け落ちているということですね。
しまりがない
「野放図」にはもう一つ、しまりがなくてだらしないという意味もあります。しまりとは規律やけじめのこと。それがないということは欲望や感情のままに行動する、自由奔放な様子です。
人間だけでなく、動物や植物が自然そのままに手入れや制御されずに好き勝手ふるまうことにも使われます。「野放図に枝を伸ばした植物」なら四方八方に乱雑に枝を伸ばした様子です。「野放図な生活を送っている」なら身を持ち崩したようなだらけた生活ですね。
「野放図」の使い方
「野放図」の主な意味は「傲慢」か「だらしない」です。しかし、文中では「のんきで考え無し」といった意味で使われていることもあります。何物にもとらわれず天真爛漫で自由奔放、と好意的なことすらあります。
どちらかと言えば粗野で印象の良くない自由、野放し状態くらいに考えておき、文脈に合わせてその都度修正していく方が良いでしょう。
「野放図」の例文
- あまりにも乱暴で野放図だったから、クラスメートからは相手にされていなかったよ。
- 部屋の散らかりようをみれば、誰だって住人が野放図に暮らしていることくらいわかるだろう。
- 彼の素朴さというか、野放図なところが気に入ったらしい。
「野放図」の文学的な用例
「野放図」の用例を文学作品から2つご紹介します。
1つ目は泉鏡花『多神教』からの引用です。
……艶々(つやつや)と媚(なま)めいた婦(おんな)じゃが、ええ、驚かしおった、おのれ! しかも、のうのうと居睡(いねむ)りくさって、何処(どこ)に、馬の通るを知らぬ婦があるものか、野放図な奴めが。
続いては小栗虫太郎『地虫』から。
「え、三伝が生きていた……」
これには、さすが野放図なお悦も、愕然と色を失った。夢ではないかと身内をま探っていたほど、それほど三伝の生存は信じられなかった。心臓を撃たれた――それには今でも、色や幻がはっきりと浮び上がってくる。
「野放図」の由来
「野放図」の由来については色々な意見があります。どれが正しいかは未だ判明していません。ここでは主なものを2つ、紹介しましょう。
「野」+「方図」説
「野放図」は「野方図」とも書きます。「野方図」は「野」と「方図」に分けることができます。「方図」は限度や際限、物事の限りのことです。きりがないという意味の慣用句に「方図がない」というものもあります。
「野」は名詞の前につく場合、自然そのまま、粗野であか抜けていない、洗練されておらず野性的といった意味です。田舎出身を卑下して「野育ち」と言ったりもします。
「野」と「方図」を合わせたものだから、「野方図」。限界や際限が自然そのままで手入れされていないのだから、規律や秩序とは無縁の自分本位という意味になりますね。
「野」+「風俗」説
「野放図」は「野風俗」が変化してできたものだという説もあります。「風俗」とは風習や習慣のこと。文化のミニチュア版のようなものです。「野」は先ほど申し上げたように粗野でワイルドなことを表します。
この2つが組み合わさった「野風俗」とは生活習慣やライフスタイルが粗野な様子という意味です。「野放図」によく似ていますね。ここから読み方がなまって変化していき、「野放図」になったとされています。