「やぶさか」の意味
みなさんは「やぶさかでない」という言葉を聞いたことがありますか?「やぶさか」は、しょっちゅう使われる単語ではないだけに、意味を誤って受け取ってしまうことの多い語句として知られています。
試しにクイズを出してみましょう。「やぶさかでない」の意味は、次のうちどれでしょうか?①努力を惜しまず積極的にする。②やりたくはないが、渋々する。③絶対にやりたくない。
「やぶさか」は「物惜しみする様」や「ケチなこと」を意味する言葉です。そこに「でない」がついて否定形になると「物惜しみしない」という意味合いになるので、①の「努力を惜しまず積極的にする」が正解です。いかがでしたか?不正解だった人も、今後誤らないために本記事で「やぶさか」について詳しく学んでいきましょう。
「やぶさか」の使い方
まずは「やぶさか」という語句の使い方を覚えましょう。「やぶさか」は現代においては、ほとんど打ち消しの意味を伴う「やぶさかでない」という使い方しかされません。「やぶさかである」「やぶさかですが」といった、本来の意味を否定しない使い方は滅多にされないということですね。
「やぶさかでない」の使い方としては「彼の頼みならば、私も協力するにやぶさかでない」「専門外のことでなければ、私とて助言するにやぶさかでないのだが」といった例文が挙げられます。ここでポイントとなるのが、助詞の使い方です。
「やぶさかでない」を使用するときには、動詞の後に続く助詞が必ず「に」になります。「協力するにやぶさかでない」「助言するにやぶさかでない」といったように、「(動詞)にやぶさかでない」という形となるわけです。
「やぶさか」の類語
「やぶさか」は誤用が広まりつつある語句なので、「やぶさかだ」として使用することには、あらゆる誤謬(ごびゅう)の危険がつきまといます。まず相手が「やぶさか」の意味を誤解していた場合、こちらは消極的な態度を取っているつもりでも、相手は真逆の意味に捉えてしまう可能性があります。
また相手が正しく「やぶさか」の意味を理解していても、「やぶさかだ」という常套(じょうとう)でない使い方に対して「こいつはやぶさかの意味を知らないな」と誤解する危険があります。消極的な意を伝えるのであれば「気乗りしない」と言った方が簡潔です。
「物惜しみする様」を表す言葉に「吝嗇(りんしょく)」というものがあります。これは簡単に言うと「ドケチな様子」のことで、「吝」は「惜しむ・けち」といった意味を持つ漢字です。ちなみに「やぶさか」も漢字で書くと「吝か」となります。「ドケチな人だ」と言いたいときは「やぶさかだ」でなく「吝嗇家だ」とするのがよいでしょう。
「やぶさか」の語源
「やぶさか」は平安時代に使用されていた言葉「悋し(やふさし)」が語源とされています。「悋し」も「やぶさか」同様、「物惜しみする性質である。けちである」といった意味の言葉です。
また「物惜しみする。惜しがる」ことは「悋がる(やふさがる)」と言い、仏教経典のひとつ『金光明最勝王経』の平安初期のものには「心に施するに悋がること無かりき」と記されています。
「やぶさか」と「まんざら」の違い
ところで、「やぶさかでない」に似た言葉に「まんざらでもない」がありますね。「まんざら」も後に打ち消しの言葉をつけて使われることが多いので、「やぶさか」と混同しないよう意味を確かめておきましょう。
まず「まんざら」は「まったく・ひたすら・まさしく」といった意味の言葉です。そこに打ち消しの言葉が続いて「まんざら○○でもない」などという場合は、「必ずしも○○ではない」といった意味になります。非常に細かなニュアンスの違いを除けば、打ち消しの言葉を伴う「あながち」とほぼ同義と考えて差し支えありません。
「まんざら間違いでもない」「まんざら苦手とも言えない」といったような具体的な打ち消しの言葉がなく、ただ「まんざらでもない」という場合は、「そう悪くはない・どちらかと言えば好意的である」という「好意」の婉曲表現となります。
「やぶさかでない」「まんざらでもない」は、いずれも打ち消しの言葉を伴うことでポジティブな意味に変わる言葉ですが、前者が必ず動詞とセットで使われることには留意しましょう。