「押しも押されぬ(もせぬ)」の意味
厳密には、私たちが普段使っている「押しも押されぬ」という言い方は誤りで、「押しも押されもせぬ」というのが正しい言い方です。
そして「自分から押すこともなく他人から押されることもない」というのが「押しも押されもせぬ」の本来の意味ですが、そこから、「実力があって堂々としている」や「どこへ出ようと圧倒されることがない」などの意味で使われる慣用句となりました。
「押しも押されもせぬ」の使い方
以下は、本来の慣用句である「押しも押されもせぬ」を使った例文です。
- 今や彼は押しも押されもせぬ大スターだ
- 評判が広まって、押しも押されもせぬ人気店となった
「押しも押されぬ」の文法的な誤り
そもそも「押しも押されぬ」という言い方は文法的に正しくありません。
「押し」と「押され」の間にある「も」は、並列を意味する助詞です。そのため、「押され」の方にも「も」を付けないと並列の関係が成り立ちません(例:右‘も‘左‘も‘わからない)。
「も」がない状態で語尾に「ぬ(しない)」を付けてしまうと、「自分は押すけれど人からは押されない」と本来の意味ではなくなってしまうので、正しく理解して使うことが重要です。
「押しも押されぬ」の広がり
私たちが「押しも押されもせぬ」を「押しも押されぬ」と言い間違えるようになったのには、なにかきっかけがあったのでしょうか。
実はこの言葉とは別に、「争うにも争われぬ」や「びくともしない」などの意味で使われる「押すに押されぬ」という慣用句も存在しています。そのため「押すに押されぬ」と混同し、誤用されるようになったとも言われています。
文化庁が平成24年に全国16歳以上の男女約3500人に実施した『国語に関する世論調査』では、実に成人の5割以上が「押しも押されぬ」と誤用していることが明らかになりました。そのため最近では、一部の国語辞書で「‘押しも押されぬ‘は誤用」と明記しています。