「輪をかけて」とは
「輪をかけて」とは「程度を一層はなはだしくして・誇張して」という意味です。基準とする状態だけでも平均以上なのに、もっと程度を増しているという状態を言います。
程度が増した結果には、好ましい場合と都合が悪い場合がありますが、両方のケースで使用が可能です。通常は形容詞の上につき「〇〇(比較する対象)に輪をかけて××(形容詞)だ」という使い方をします。
別の表現では「しんにゅう(之繞)をかける」、さらに上の表現で「輪に輪をかけて」という言葉もあります。
古い用例では江戸時代初期の『三河物語』に
(柴田七九郎が、大久保七郎右衛門忠世に輪をかけて言うには)
『三河物語』は当て字や俗語を含む、口語に近い文章でつづられており、そこに「輪をかけて」の表現があることに注目です。「輪をかけて」は、かなり古くから一般に使われている表現のようです。
「輪をかけて」の語源説
「輪」は基本的に、円い輪郭を持つもの全般を指します。では「輪をかけて」と言うときの「輪」は、具体的に円い輪郭の何を指しているのでしょうか?
これは弓道が語源だとする説が有力です。弓に弦(つる)を張るとき、弓にかける部分を弦輪(つるわ)と呼ばれる、輪の形に結んで引っ掛けます。弓に対して適正な長さの弦を、ちょうど良い大きさの弦輪によってきちんと張ることで、よりピンと張ることができます。
こうして弦がしっかりと張られていれば、強く矢を飛ばせるため、より勢いを増す→程度を一層はなはだしく、につながったとするものです。
一方、輪は古くは樽(たる)や桶(おけ)を締め付けている箍(たが)の意味もありました。箍は、樽や桶の本体よりも一回り大きな円を描いており、このことから「程度をさらに誇張して」という意味に使われるようになったとする説もあります。
ことわざ辞典の中には「輪郭を一回り大きくする意からいう」と、こちらの説を記載しているものもあります。
何に「輪をかけて」いる?
それでは、例文を紹介しつつ、より具体的に説明していきます。
人の性格に「輪をかけて」…
人間の性質・性格・行動について、「輪をかけて」と言うことがあります。辞書に掲載されている用例には、この使い方が多いようです。比較対象となる人物が必要ですが、悪い意味で使う場合には、気を付けたほうがよいかもしれません。
- 彼は父親に輪をかけて働き者である。
- Aさんも面倒臭がりだが、Bさんはそれに輪をかけているね。
話に「輪をかけて」…
話をいかにも大げさに話すことを、「輪をかけて」と表現します。この場合のベースになる比較対象は、現実・実際の出来事なので、半分ウソという感じで受け取られかねません。
- あまりにも輪をかけて話すものだから、まともに相手していられない。
状態に「輪をかけて」…
状況・状態について、「輪をかけて」と言う場合もあります。現在、日常会話で一番多く使われている例かもしれません。ネガティブな要素に対しても使うことがあります。
- 業界の不振が輪をかけて襲ってきた。
- 独特のソースの風味が、輪をかけて濃厚である。
- 若者たちの暴走ぶりは、輪をかけてすさまじいものとなってきた。
「輪をかけて」の類語
「輪をかけて」の類語としては「(話を)盛って」「尾鰭(おひれ)をつけて」「誇張して」「大仰に」「エスカレート」などがあります。
拍車(はくしゃ)をかけて
「輪をかけて」と似た意味の言葉に「拍車をかけて(かける)」があります。馬に拍車(乗馬靴のかかとに取り付ける金具)を当てて早く進ませるということから、物事の進行を一層早めるという意味で使われます。
拍車を当てる主体の存在と、物事の進行という時間的な要素がカギとなりますが、条件が揃えば「輪をかけて」と同じような使い方ができそうです。
「輪をかけて」を英語で言うと?
「輪をかけて」を英語にする場合、普通に比較級を使った表現でmore~thanとしてもよさそうですが、他の言葉でも表現できます。
- exaggerate:事・物に対して実際よりも大げさに言うところから「輪をかけて」となります。良い意味でも悪い意味でも使用が可能です。
- stretch:伸ばすという動作から、言葉の意味の拡大解釈や、真実などを誇張する意味につながります。