「報いる」とは
「報いる」には善意を込めるケースと、悪意を込めるケースがあります。人対人の関係における、一方の行為に対する反応という点は共通ですが、「報い」の受け手側からすると、前者と後者ではだいぶ差があります。
それぞれ意味をまとめると
- 受けた恩や払われた労力などに対して、ふさわしいお返しをする。
- 他から受けた被害に対して、仕返しをする。
「報いる」は日本の古い言葉では「むくゆ」で、中世に入り「むくふ(むくう)」と変化したようです。また、近世以降は「むくゆ」と「むくふ」が混在して使われていました。現在の古語辞典を見ると、同じ意味として、両方の項目が存在します。
「報いる」の比較的古い用例では、1922年発表の芥川龍之介『将軍』があります。
「むくゆ・むくふ」から「報いる」に変化したのは、やはり近代に入ってからと考えられます。
「報いる」の語源
「むくいる」は「むく(向く)」が語源とされています。「むく」を動詞化して「むくゆ」という言葉になりました。つまり、人と人が対等に向かい合う関係から、生じた言葉だということです。
「相手から受けたことに対して応答をする」という意味では早くから用いられており、のちに善意であれば善意を、悪意であれば悪意をもって応えるのが「報いる」となっていったようです。
ちなみに、名詞形の「報い」には、人と人が向かい合う意味がありません。「行為の結果として身に返ってくるもの」「前世の行いが、現世に返ってくること」となり、いつの間にか神仏と人との関係になっています。
「報」と「酬」「讎」
「むくいる」を漢字で書くと「報」のほかに「酬」「讎(讐)」があります。本来はそれぞれ少し異なる意味を持っていました。
- 報=報復刑。罪に応じて刑罰を下すこと。
- 酬=返杯。客からの返杯に対して、主人がもう一度、客にすすめること。
- 讎=補償する。受けた品物に対して代価を支払うこと。
「報いる」の使い方
- 貢献度の高さから考えて、相応の金額で報いるのは当然のことだ。
- 功績に報いる意味で、部長への昇進が決まった。
- 俺に恥をかかせたようなやつらには、必ずや報いるつもりだ。
「報いる」を含んだ慣用句と例文
- 一矢報いる:劣勢を覆せないまでも、わずかながら反撃をする。(例)大量リードを許していたが、最終回に特大のソロホームランで一矢報いた。
- 親の因果が子に報いる(報う):親の代の悪行が、子供の代に災いとなって降りかかる(例)親父の借金を私が返さなくてはならないとは、まさに親の因果が子に報いるである。
- 徳をもって怨みに報いる(怨みに報ゆるに徳を以てす):嫌な事をされても、逆に良い事をして返す。(例)徳をもって怨みに報いると言う通り、一度裏切った相手ではあっても、困っているのならまた手を貸してあげてはどうだろう。
「報いる」の類語
善意を持って「報いる」という場合の類語としては「恩返しする」「返礼する」「報奨する」「報謝する」などがあります。
一方、悪意を持って「報いる」場合は「借りを返す」「報復する」「復讐する」「宿怨(しゅくえん)を晴らす」「意趣返し(いしゅがえし)をする」「目には目を、歯には歯を」などが挙げられます。
「報いる」を英語で
- repay:好意・尽力に対してお返しをすることです。仕返しの意味はありません。
- reward:善行・仕事などに対しての報酬・褒賞の意味です。こちらも仕返しの意味では使いません。
- recompense:報酬の意味で使われますが、with evil intentと続くと悪意をもって報いる、ということになります。
- return:戻す・返すという動作から、答礼・返礼という意味があります。
- revenge:報復・仕返しの意味です。お返しの意味はありません。