「足元をすくわれる」とは?
「足(足元)をすくわれる」の意味
「足(足元)をすくわれる」は「足を引っ掛けて転ばされる」ことを表し、転じて「卑怯な手段で隙をつかれて失敗させられる」「油断している時に思わぬ手段でつけこまれる」という意味になります。「足(足元)をすくわれる」は、例1と2のように、能動的にも受動的にも使用します。
- 例1:「ライバルの足をすくうとは、卑怯な奴だ」
- 例2:「調子に乗っていると足をすくわれるぞ」
「すくわれる」は「掬われる」であり、「救われる」ではありませんので、変換ミスには気をつけましょう。また「足元をすくわれる」は誤用で、正しくは「足をすくわれる」とされていますが、これについては追ってご説明します。
「足元」と「足下」と「足許」
ところで、「あしもと」を漢字で書く時にどのように書きますか?使う漢字によって、次のようにニュアンスが違います。
- 「足元」:足の周り。いま足がある場所から1、2歩先くらいまでの空間や地面を指します。
- 「足下」:足の下。いま足がある場所と、1歩先までの空間や地面を指します。
- 「足許」:足のある辺り。いま足がある場所から数歩進んだ先くらいまでの空間や地面を指します。
つまり、「あしもと」が足の周囲を指す範囲の広さは「足下<足元<足許」なのです。しかし、ニュースや新聞などでは「足元」の表記に統一していますので、迷った場合や、細かいニュアンスを含む必要がない場合には「足元」と書くのが良いでしょう。
「足元をすくわれる」は誤用?
正しくは「足をすくわれる」で、「足元をすくわれる」が誤用とされている理由は、「足をすくわれる」は「足を引っ掛けて転ばされる」という状態を表しているので、引っ掛けるのは足であって、足の周りの地面や空間を表す「足元」は引っ掛けられないから、というものです。
ただし、足を引っ掛けるためには「足元(いま足を置こうとしている辺り)」を払うことになるので、「足元をすくわれる」も間違いではないとする意見もあります。
実際、文化庁が発表している『国語に関する世論調査』において、平成19年度には「足をすくわれる」を使う人は16.7%で、大部分の人は「足元をすくわれる」を使っていました。
誤用であるという認識が浸透してきたのか、平成28年度の調査では「足をすくわれる」を使う人は26.3%と増加していますが、「足元をすくわれる」を使う人が多い状態が続けば、そちらも正しいとされる日がくるかもしれませんね。
このように、誤用や意味の取り違えの方が主流になってきている言葉は他にもありますので、平成28年度の『国語に関する世論調査』をもとにご紹介します。
誤用が多い慣用句
「はっきりと言わない曖昧な言い方」のこと
- 正:「言葉を濁す」を使う 74.3%
- 誤:「口を濁す」を使う 17.5%
「言葉を濁す」が正解ですが、正解率は8割以下でした。しかし、「口(言葉)を慎む」、「口(言葉)が過ぎる」のように「口」と「言葉」のどちらを使っても同じ意味になる慣用句もあるので、「口を濁す」の使用を認めている辞書もあります。
「存続するか滅亡するかの重大な局面」のこと
- 正:「存亡の機」を使う 6.6%
- 誤:「存亡の危機」を使う 83.0%
「存亡の機」が正解。「生き残るか滅びるかの重大な時機」という意味なので「機」が使われます。「危ない状態」を表す「危機」では意味が違ってしまうのですが、危機的状況であることを強調するために「危機」が使われ始めたようです。
意味の誤解が多い慣用句
「さわり」の意味は?
- 正:話などの要点のこと 36.1%
- 誤:話などの最初の部分のこと 53.3%
「さわり」は「要点」という意味。もともとは音楽用語で、江戸時代に流行した「義太夫節の最大の聞かせどころ」という意味で使われたのが始まりです。
しかし、現代においては、本を手に取ればあらすじが表紙カバーに印刷されていますし、論文の先頭はアジェンダ(要旨)です。音楽を試聴すれば、曲を象徴するようなイントロから始まったり、サビから始まる曲もあります。
このように、「要点」が真っ先に目につくところにあったため、「最初の部分」という意味に誤解されていったのかもしれません。
「ぞっとしない」の意味は?
- 正:面白くない 22.8%
- 誤:恐ろしくない 56.1%
「ぞっとしない」は「面白くない、感心しない」という意味です。「ぞっと」という副詞は「(寒さや恐怖などが原因で、あるいは強い感動を受けて)、からだが震え上がる」状態を指しています。
- 「ぞっとする」:「寒さや恐怖」が原因で体が震える。「恐ろしくて震え上がる」こと。
- 「ぞっとしない」:「強い感動を受けない」ので体が震えない。「面白くない、感心しない」こと。
しかし、「ぞっと」が「寒さや恐怖」だけに関係する言葉だと認識されてきたため、「ぞっとしない」は「ぞっとする」の否定形として解釈され、「恐ろしくない」という誤用が浸透したと考えられます。
「知恵熱」の意味は?
- 正:乳幼児期に突然起こることのある発熱 45.6%
- 誤:深く考えたり頭を使ったりした後の発熱 40.2%
「知恵熱」は「生後半年から1年くらいの幼児に見られる突発性の発熱」のことです。赤ちゃんは、生まれたばかりの頃は母親から受け継いだ免疫によって守られていますが、徐々に自分の免疫機能へと移行します。
その機能が十分発達していないこの時期は病原菌に感染しやすくなるため、突然発熱することも多いのです。この時期が、ちょうど知恵がつき始める時期と重なるので、この名前が付きました。
大人がたくさん頭を使った時に具合が悪くなるのは、悩み事や過労などストレスによる心因性の発熱ですので「知恵熱」ではありませんが、ストレスが多い現代社会において、そう表現したくなる気持ちは理解できます。
「足元をすくわれる」の意味や使い方まとめ
言葉は移り変わるもの。主流が正解になる日がくるかもしれませんが、今のところは「足元をすくわれる」は誤用ですので覚えておきましょう。また、言葉の間違いばかりを指摘していてはコミュニケーションが成り立ちませんので、相手の間違いには寛容になることも大切です。正論を振りかざして調子に乗っていると「足をすくわれる」こともありますので。