「了解いたしました」の使われ方
仕事関連など少し改まった人間関係において、「了解いたしました」という表現をよく聞きます。くだけて言えば「わかりました」ということですが、ちょっと格式張ってしかも丁寧なイメージが表せるということで、メール文などでは好んで使われているようです。
しかし、この「了解いたしました」という言い方を、目上の人に使うのは失礼にあたるから使わない方がよいという意見もあるようです。
本当のところはどうなのでしょうか。まずは「了解」という語句について見てみましょう。
「了解いたしました」は失礼?
了解の「了」は、「終了」「完了」という熟語に使われているように、「終わる、結末をつける」という意味があり、「解」には「わかる」という意味があります。このため
「了解」=「わかった。この件は終わり。(ご苦労さん)」
というようなニュアンスでとらえると、いかにも部下から報告を受けた上司のセリフという感じがしますね。目上の人に使うのは失礼というのは、ひとつにはこうした語の解釈から生まれているようです。
「了解」の本来の意味
しかし、「了」にはもうひとつの意味があります。それは明瞭の「瞭(諒)」とも書き替えられるケースで、「はっきりとわかる」という意味です。じつは「了解」の「了」はこちらのほうの意味であり、
「了解」=「よく(明瞭に)わかりました。」
というのが本来の意味なのです。したがって、「了解」そのものには、上下関係を示唆するような意味はありません。
「承知いたしました」を使えばよい?
「了解いたしました」は目上に失礼であるという意見は、2000年に入ったころからビジネスマンのマナー本や指南書で指摘され始めたと言われています。上司や顧客などに対しては、「了解」ではなく、
「承知いたしました。」
「かしこまりました。」
などを使うのが適切であるとされるようになりました。こうした表現は敬語の一種である謙譲表現と呼ばれます。つまり日本語はこのような敬語表現を豊富にもっているために、「了解いたしました」という“普通の”言い方では、かえって失礼に感じられてしまうということなのです。
確かに、「承知いたしました。」「かしこまりました。」という表現は、目上の人に対してはふさわしい言い方であり、できればこのような表現を使うように心がけたほうが、気持ちのよいコミュニケーションができそうですね。
同意できないときは?
ところがこうした言いかえではちょっと困ったことも出てきます。「承知いたしました。」「かしこまりました。」というのは、相手の希望や命令を完全に承諾するという語感を色濃くもっているからです。
仕事上のことですから、相手の言う通りに受け入れることは難しいこともあるでしょう。仮に「あなたの言っている内容は理解した」ということだけを伝えたいとき(つまり自分が同意するかどうかは別問題というとき)にはどうすればよいのでしょうか。
これはケースバイケースで一概には言えませんが、たとえばメールの返信であれば、
「メール拝受いたしました。」
「詳細承りました。」
「ご趣旨(御用の向き)承りました。」
などという表現を使って書き始めるとよいかもしれません。また、「相手の言うことは理解した」という意味で「了解」を使うときも、「了解しました」「了解です」ではなく、「了解いたしました」という表現を使ったほうが丁寧であることは言うまでもありませんね。ちなみに「いたす」は「する」の謙譲語です。
「了解いたしました」を英語で言うと
「了解いたしました」に当たる英語は何でしょうか。日本語に比べて英語の敬語表現は簡素ですから、ニュアンスの違いはかなりあります。(したがって以下の訳文もあえて約せばだいたいこんな感じという参考程度です)
- O.K. / I get it.「わかった。」「わかりました。」「了解。」
- All right.「いいとも。」「いいですよ。」「了解。」
- I understand.「わかりました。」「了解しました。」
- Sure.「いいですとも。」「了解いたしました。」
- Certainly.「かしこまりました。」「承知いたしました。」
- Roger.「(無線通信などで)了解。」
「了解いたしました」のまとめ
いかがでしょうか。「了解いたしました」という言い方は、本来は丁寧な表現ということもできますが、他にすぐれた敬語表現があるがために、使う場面によっては要注意のフレーズとなってしまっています。
言葉はその受け取り手によって大きくイメージが左右されるものですから、TPOに応じた言葉の使い分けを心がけたいものですね。