「へそで茶を沸かす」の意味
「へそで茶を沸かす(わかす)」という慣用句は、「おかしくてたまらない」「ばかばかしいほど滑稽(こっけい)だ」「笑止千万なことだ」といった意味を表します。ある人の仕草や行い、発言や考え方について「本気とは到底考えられず、くだらなすぎて思わず大笑いしてしまいそうだ」と、自分の感想を比喩的に述べる言い方です。
「へそで茶を沸かす」の由来
「へそで茶を沸かす」という慣用句のうち、「へそ」とは体の中心である「お臍(おへそ)」のことを示します。この慣用句を文字通りに受け止めると「へそを使って、お茶を沸騰させる」といった意味合いになります。ちょっとどういう状態なのかにわかには理解できず、つじつまの合わない表現にも聞こえます。
「へそで茶を沸かす」は江戸時代頃に成立した慣用句だと考えられます。「へそが茶を沸かす」とも言われます。言葉の由来には諸説がありますが、一つには「腹がよじれるほど大笑いする」仕草が、湯煙が立ち上る様子に似ていることから、「まるでへそが茶を沸かして湯気が出ているように、腹を抱えて大笑いする」といった比喩の表現になったとするものです。
また「茶を沸かす」は「茶化す」が転じたとの説もあります。江戸時代、浄瑠璃の芝居小屋でへそを出して演じている役者を見て、観客が「へそが出ているぞ」と茶化して笑ったのがが由来だとされます。当時は、へそは他人に見せるものではないとの考え方があり(今でも水着姿や女性のファッション以外では変わりませんが)、演技に熱が入り衣服がはだけてへそが見えた演者のことをあざけり「へそを茶化した」のが、「茶を沸かす」に変化したというものです。
「へそで茶を沸かす」の使い方
「へそで茶を沸かす」はこのように、他人の行為についてやや「小馬鹿」にしたようにあざけって大笑いする、といったニュアンスを持ちます。俗っぽい慣用表現であり、人をほめるなどの良い文脈や、公の儀礼的な場面で用いるのはあまり適切ではないといえます。
このため「無謀なことをやろうとしている人」や「大言壮語を吐く人」、あるいはそうした発言内容について、相手の能力からすれば到底できるはずかない、身の程知らずな言いぶりだとして、一笑に付すような場面で使う言葉だといえるでしょう。なお「へそで湯を沸かす」は間違った言い方となります。
「へそで茶を沸かす」の例文
- ろくに練習もせずに「将来はメッシになれるかも」とか「ロナウドみたいなプレーをしたい」とか言っているが、「へそで茶を沸かす」だ。もっとまじめにやれ。
- 今年こそは禁煙するって、その宣言を聞いたのはもう3回目だよ。やれやれ。それこそ「へそで茶を沸かす」だな。
- ノーベル賞を受賞されたあの先生も、駆け出しの頃は「何をへそで茶を沸かすようなこと言っているんだ」と、研究仲間から馬鹿にされたそうです。若い才能は大切にしなくてはなりませんね。
「へそで茶を沸かす」の類似表現
- 「へそが宿替えする」…「おへそが宿替え(引っ越し)をするかのように動く」ことから、ばかばかしすぎて大笑いする様子。
- 「噴飯物」(ふんぱんもの)…「おかしさに耐えきれず、食べていたご飯を思わず吹き出してしまうこと」から、そのくだらなさにあきれて、爆笑してしまうような事柄のことを指す。
- 「ちゃんちゃらおかしい」…思わず笑ってしまうくらいにおかしい。対象を嘲笑するときに用いる。
- 「来年のことを言うと鬼が笑う」…「未来は明日のことさえ分からないのに、まして来年ほど先のことをあれこれ推測するのは愚かだ」ということわざ。発言が荒唐無稽で、恐ろしい鬼でさえ笑ってしまうほどだという例え。
「へそで茶を沸かす」のまとめ
「へそで茶を沸かす」のように、他人を嘲笑する日本語表現にはいろいろな種類があるようです。英語でも、あまりにばかばかしい出来事のことを「馬が笑う」と言うのだそうです。いずれも「そんなことはあり得ない」ということを、大仰に比喩している言い方です。日常会話で使うことは少ないでしょうが、覚えておけば表現や理解の幅が広がる慣用句の一つだといえるのではないでしょうか。